*好きかもしれない*

「………あ。」

聞こえる耳慣れた声に一瞬思考が止まり、日誌から顔を上げて顔を扉に向ける。それは、もう帰ったとばかり思っていたこの机の持ち主。鞄を脇に抱え驚いたような顔をしていた瑛くんが、扉をピシャリと後ろ手に閉めて近付いて来た。

「オッス。佐伯。帰ったんじゃねぇのか?」
「……忘れ物。」
「あっ、あのね?日誌書いて何だか冷たくて、ハリーがね?」

ただ席を借りてるだけなのに、悪い事をしてる気分。
急に赤くなる頬を自覚しながら理由を説明しようとするけれど、何故か焦ってしまいまともな説明には程遠く、反対に言葉が詰まって続けられなくなり、がっかりと肩を落とす。
ハリーは肩を竦めて苦笑いし、瑛くんはキョトンと首を傾げた。

「だっ、だからね?」
「…分かったって。寒かったからここにいたんだろ?俺の席、日が射すし…。で?少しは暖まったのか?」

ちゃんと説明をし直そうとした私に向かって、呆れたような顔をした瑛くんが口を挟み、ポケットからひょいと手を出すと腕に触れる。
ただ指先で挟むように掴まれただけなのに、右肩がピクと跳ねその場所が熱を持ったように熱くなるのを感じる。

「腕、そんなには冷えてないな。大丈夫か…。」

言葉を無くした私に気付かないのか、一人納得したように指先を離すと、隣の席へと脇に抱えていた鞄を置き椅子をガタガタと引っ張り当たり前のように腰を下ろした。

「なぁ、佐伯。忘れモン、なんだろ?」
「ん?…ああ、そうそう……、悪いな、あかり。」

ハリーの問い掛けに今思い出したと目を見開く瑛くんが、右手を机の上に、左手を私の背にある背もたれに回す。「ちょっと、ごめん」とまるで自分が悪いかのように謝りながら机の中を覗くと柔らかそうな髪がふわふわとお腹辺りで揺れる。

肌に触れてる訳じゃないのに…お腹、擽ったい…。

さっきよりも熱くなる顔、不自然な場所にある瑛くんの顔。
緊張感に思わず身体を硬直させ太股に力を込めてぎゅっと閉じると、左手が不意に動き私の腕を掠めて机の中に伸び、一冊の辞書を手にした。

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