*不覚にもときめいた*

ザザン――と、突如高くなる波。泡立つような波が押し寄せ月明かりに黄金に輝く。

この景色が一番好きなはず、なのに…な。

じっと見つめていたつもりが、何も映し出していなかった事に気付き自嘲気味た笑みを浮かべた。
さざ波の向こうに見えていたのは、俺の肩から顔を上げた―――。

『ごっ、ごめん…ね?』

暫く力無くもたれていたあかりが俺の両肩に手を置き、怖ず怖ずと身体を起こしながら乱れた髪を耳に掛ける。
夜の闇の中でもはっきりと分かる程上気した頬、ボタンが外れたままのブラウス。そして……下着からはみ出たままの白い膨らみ。

さっきまで目にして触れていたはずなのに、思わず吸い込まれるように見つめると、その視線に気付いたあかりが俯き、慌てて両腕を閉じて胸元を隠した。

『あっ、あの……み、た……?』

よく考えなくても、ついさっきまで、それ以前にも見ているのに、これ以上は上げられないとちらりと上目だけを俺に向ける。

真っ赤になった頬。
潤みながら揺れる瞳。
静まり返った空間に零れる、消えそうなくらい小さな問い掛け。

その姿に俺の思考は止まり、勝手に動く右手があかりの頬を包み、ゆっくりと顔を近付けていた。

「……どうしたんだよ……俺。」

たぶん…本当の俺を知っていて、色んな秘密を知っていて…。

ただの友達。

そんな言葉が適切かどうかも分からない…でも、その言葉が一番似合う関係。

――なのに…あの時感じた気持ちって…なんだ?まさか…あかりにときめい……。

「バカバカしい。そんな事、ある訳ない、だろ。」

一瞬頭に浮かんだ単語を否定するように、頭を思い切り振る。

きっと、子供の頃の事を思い出したからだ。

だから…キス、なんかしたんだ。

今でも感触が…あの表情が残ってるのは…きっとそのせいだ。

「………帰ろ。明日も早いし―――。」

次々浮かぶ映像を振り切るように立ち上がる。
今日はさっさと寝て、いつもより睡眠取ったら…訳の分からない感情も消えてるはず。
いつの間にか静かで凪いだ海を一瞥し、溜め息をつくと店を目指し歩き始めたのだった。

不覚にもときめいた
END

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