*キスしたかったから*

パチパチと少し独特な間隔のある音。何となく切なく、夏の終わりを感じさせるような静かな火花。

誰もいない静まり返った公園の中、瑛くんと二人しゃがんで向きあって…線香花火をどちらが長くもたせる事が出来るか。

そんな勝負をしている。

ニコニコと笑う女の人と少し離れた所で見守るように微笑む男の人に抗う事が出来ず、花火が入った袋を受け取って二人で始めて…。

「あ、これで最後だ…。」
「線香花火?何か懐かしいね?誰が一番長く火種をくっつけていられるかって競争したよね〜?」
「……競争…?……勝負か。よし、俺とおまえで勝負。」
「え?な、何で勝負になるの?私、そんな事…。」
「問答無用。言い出しっぺはおまえ。じゃあ、いくぞ?」

時折子供っぽくなる瑛くんの顔は何だか楽しそうで、仕方ないかと受け取った線香花火を揺れないようにしっかりと指先で摘む。

間隔のある火花が二人の間を包み、妙に真剣な瑛くんの表情を明るく照らし出した。

ゆったりと、でもパッと花が咲いたような大きな火花、黄色のような白のような不思議な色。
その花がだんだんと小さくなって咲くのをじっと見つめていると、不自然に揺れる瑛くんの火種がぽとりと落ちた。

「あ、瑛くんの落ちちゃった。案外瑛くんって下手なんだね〜?もしかして、じっとしてるの苦手?」

火種がなくなっても黙ったまま動かない指先に、苦笑いしながら顔を上げると目の前に上体だけを前のめりに、そして僅かに首を傾けた瑛くんの顔。

真剣な、でも、独特な色をした瞳が弱くなる花火の中ゆらりと近付いてぼやけて……。

「――――!!!――――。」

私の指先の線香花火が揺れ、反動で火種が落ちると共にゆっくりと離れる。

―――今の………なに……?

視界に溢れる瑛くんの瞳がぱちりと瞬きして漸く指先が動き、余韻のように唇に残る柔らかさに、抱えていた片手で口許を覆った。

これってどう考えてもキス、だよ…ね?

突然の出来事に茫然と見つめていると、手の中の消えた花火を抜き取った瑛くんがすっと立ち上がり、終わった花火を集めて歩き出した。

――なんで?―――どうして――?

そんな言葉ばかりが頭の中をぐるぐると回り、喉の奥に詰まってるみたいで出て来ない。
水飲み場の水道で花火を濡らし始めて漸く勢いよく立ち上がった。

「――今の、なに!」
「……なにって……キス?」
「キス?じゃないよ!どうして――!」
「……だって…。キス、したかった、から。」

俯いたまま花火に水をかけ続ける瑛くんのどこかのんびりとした口調に、冗談じゃないと慌てて駆け寄った。

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