*キスしたかったから*

飽きるなんて言葉を忘れるくらい一つ一つの水槽の前ではしゃいで、満足して外に出てみるといつの間にか夕闇色。

「わぁ〜、もうこんな時間になってる!でも、今日は楽しかった〜!」
「そうか?」
「うん!名残惜しいくらいだよ〜。」
「…じゃあ、ちょっと寄り道でもしてくか?」
「あ、いいかも。真っすぐ帰っちゃうのは勿体ないよね?」

そこ、とばかりに指を差さされたのは、まだ入った事がない小さな公園。

水族館からすぐなのに緑が多く、人気がないのか静まり返っていて、ゆっくり出来るかもと頷き隣を歩く。

少し座って話でもとベンチに向かって歩いて行くと、真ん中にある噴水の裏側に人がいるのが目に映り袖を引いた。

「瑛くん。ほら、花火やってるよ?」
「あ、ホントだ。夏の残りでもやってるのか?」
「そうかも。でも、もしかしたら残しておいたのかもだし。」
「……なんで?わざわざ残す必要なんてないだろ?」
「ちっちっ。瑛くんは情緒がないなぁ〜。夏の思い出を振り返りながら楽しむのがいいんだよ〜。」
「何だよ、それ?」

立てた人差し指を振って見せると、眉を寄せた瑛くんが右手を振り上げ下ろすから慌てて受け止めた。

「……チョップは反対です。」
「おまえが分かんない事言うからだろ?」
「そうかなぁ〜?そんな事ないと思うけど。綺麗だし……。」
「まぁな。……ちょっと近付いてみる?」

頭に両手を上げたまま、いいかもと見上げると形のいい唇を綺麗に上げ柔らかく微笑む瑛くんと目が合った。

「おまえ、花火とか好き、だろ?子供だから。」

そんな事ないと反論するより先に両手の中にある大きな掌がくるりと動き、私の片手を包み込むとぐいと引いて噴水へと歩き出す。

少しひんやりとした感触を感じながらも言い返す隙がないのが悔しくて、瑛くんに見えないようこっそりと小さく舌を出した。

だんだんと濃くなる夕闇の中、赤や青や白、独特な光の中、楽しそうに笑っているのは少し年上らしいカップル。

ひやりとする秋めいた海風が火花を幻想的に踊らせるのを、繋がる温もりを掌に感じながら二人で黙って見つめる。

「……秋の花火も結構いいな…。」
「……そうだね…。結構、いいね。」

ぽつりと零すような呟きに見上げながら言葉を返すと、地面を踏み締める軽やかな音が聞こえ視線を向けた。

「良かったら、どうぞ?」

立っていたのは、今までそこで花火をしていた少し年上らしい女の人。
柔らかそうな髪が背中の辺りで揺れていて、それと同じような優しい微笑みを向け手にしていた花火の入った袋を私達に差し出した。

「これ、終わらせるだけの時間がなくって。良かったら貴方達で使って?」
「えっ?でも……。」

どうしたらいいものか。
二人で顔を見合わせ言葉を詰まらせる私達に、目の前の女の人はにっこりと笑顔を向けたのだった。

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