*余裕なんてないくせに*

窓を開け放した教室は9月らしい風が吹き抜けて。

外から聞こえてくる体育の授業なのか生徒の楽しそうな笑い声。
そして教室の中に響くのはノートにペンを走らせる音と何処からともなく上がる誰かの欠伸。
一際高く上がる歓声にノートに落としてした視線を窓の外に向ける。
高くなり始めた薄い青の空と、光を弾く海。

いつもならその景色に目を奪われるはずなのに、瞳に映っているはずの景色が心に響く事がなく。
考えるのはあれから言葉を交わさなくなった二人の事。

あかりに手を出し勝手に気まずくなって…針谷に悟られるのがもっと嫌で昼休みに顔を出さなくなって…もう2日になる。
もともと同じクラスでもあかりとはそうそう話す事もなく、いつも通り今まで通り。
クラスが違う針谷とは顔を合わす事もなく。

俺がすぐに消えなくなったのを目ざとく見付けた女子達にまたも連行されて…また上辺だけの笑顔を作る時間が長くなって。
息を止めたまま過ごしているようで…。
たった2日だけなのに息苦しくて…。
たいした事のない二人との時間が案外大切なものなんだな、とか…思う。

一人でいる事が当然で一人でいる方がいいと思っていたのに。
三年間の高校生活はそれを覚悟して、そのつもりだったのに。

「…佐伯くん?…佐伯くんってば!!」
「―――はいっ?」

机をバンと叩かれ我に返ると―――。
男子だった前の席の奴は女子に変わって俺の方を向いていて…。
机に置かれた手の持ち主を辿ってみればやはり女子で。
……それどころか周り中女子だらけで。

「も〜。どうしたの?今日は私達の番でしょ〜?」
「……え…っと。」
「あー!やっぱり忘れてる!」
「ち、ちがうよ?お昼、だったよね?」

取り囲まれてる理由は片手程しかなく、何とか写し終わったらしいノートをしまい、適当に返事をしながら立ち上がればやはり当たっていたようで。

視線だけで辺りを見渡すと半分程の生徒は席を空け、残る生徒もそれぞれに楽しそうに弁当を広げ雑談をしているけれどその中にあかりの姿はなく…。

わざとらしい笑顔を浮かべながらぞろぞろと女子生徒を引き連れ教室を後にする。

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