*余裕なんてないくせに*

「なーに、きょどってんだ。なんかやましい事でもあるんじゃねぇだろうなー?」
「バカか!?…おまえじゃあるまいし!」
「どうだかなー?オマエ、かなりヘンだぞー?っつーかさ、あかりはどうしたんだー?あれからこっぴどくやられたのか?」
「だから言ってるだろ。おまえじゃあるまいし。俺は普段の行いがいいから何もないんだ!」

ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべ、身を俺に向けて乗り出すように覗き込む針谷の顔を、邪魔だと払いのけながら動揺を隠す。
あれから…目が覚めたあかりを部屋に残して珈琲を淹れている間中…絶対に文句…どころか、一発殴られるくらいを覚悟してたのに…。
ぎこちない態度のあかりと気まずい時間を過ごして、気まずいまま送り届けて…現在に至る…なんて。

俺は後悔なんてしてないけど…やっぱりまずかったかと授業中も上の空で。
こっぴどくやられた方がマシだったかと溜め息を付くと同時に勢いよく扉が開いた。

「やっぱり購買って苦手ー!いいパン買えないんだもん!」
「お?なんだー?寝坊か?夜遊びでもしてきたか。」
「そんなわけないでしょ?私だって眠れない夜だってあるんだよ?」
「ウソつけ。食い過ぎて眠れなかったんだろ。」

針谷に向かって舌を出すあかりが俺の前に何気なく座る。
いつものように…いつもどおりに。本当に自然な仕草で。

「瑛くんはいいよねー?いっつも美味しいパンでしょ?」
「……交換、したらいいんだろ?ほら、好きなの取れ。」
「やったー!ありがとー!」

…いつもどおりだけど…何処となく無理をしているように見えるあかりに袋を差し出す。

……こういうの…何だか嫌だな。
今まで自然に接してたのに…。

「……瑛くん…。もしかして…意地悪…?」
「…そんな訳ない、だろ。ほら、選ぶんだろ?」

差し出した袋がガサリと音を立てたと同時に聞こえるあかりの声にハッと我に返ると、あかりが袋に手を入れた矢先に俺がその先をわしづかみしているところで…。
恨めしそうな瞳で見上げるあかりにそれを押し付けて誤魔化す。

今……どうしてそんな事を考えたのだろう…?

ふいに浮かんだ不安がどうしても分からなくて、あかりが交換と言って差し出したあんパンを受け取りながら首を傾げたのだった。

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