*じゃあ、奪ってあげる*

「あ、私のだ。ちょっとごめんね?…もしもし、はるひちゃんどうしたの?…え…?」

慌てて立ち上がるあかりが近くの机に置いた小さめのバックから携帯を取り出し電話に出ると部屋の隅に足を進める。

何やら動揺した雰囲気のあかりに何だろうとは思いつつも、さっきまで摘んでいた一通を手に取りながら残ったパンを珈琲で流し込むと、電話を終えたらしいあかりが大慌てで片付けを始める。

「どうかしたのか?」
「うん。はるひちゃんがね?会って欲しい人がいるからって。…なんだと思う?」
「そりゃあ…。一人で大丈夫か?」
「大丈夫だよ〜。子供じゃないんだから…じゃあ、二人とも、またね?」

パタパタと走り廊下まで出るともう一度バイバイと手を振り扉が閉まる。
小さくなる足音の後静けさが戻り、針谷と顔を合わせると苦笑いで肩を竦めた。

「あの様子じゃ、あんま分かってねぇな?」
「だろうな。また…矢継ぎ早だな。あいつ、ついていけてないんじゃないか?」
「時間もねぇ事だしな。それだけ必死なんだろうよ、アイツらも。あかりは…パニック起こすだろうな。」

面白がってるような嫌な笑みを浮かべる針谷に眉を寄せて、俺が手にしたままになっているあかりへのラブレターを何気なく開けてみる。

「お前、底意地悪すぎ。なになに?『俺と付き合って、修学旅行の自由行動を一緒に過ごして下さい』…?って、どっちが目当てなんだよ。」
「そりゃあ…俺と付き合って一発やらせて下さい、じゃねぇの?イヤだねーがっついてて。」

掌を上に向けて外人よろしく、大袈裟に首を左右に振る針谷に溜め息をつく。

―――まったく……世話の焼けるやつ。

手紙をピンと針谷に向けて指で弾き立ち上がると扉に向かって歩き出す。

「なんだー?結局略奪かー?」
「面白がるなよ。でも…まぁ奪って来てやるよ。どうせ困ってるだろうしな。ホント、世話の焼けるやつ。」
「保護者は大変だなー?って…それだけじゃねぇんだろうけどな。」
「あ?何?」

扉の前まで進む俺には針谷の最後の言葉は聞こえなくて。
なんでもないとジェスチャーする針谷に首を傾げながら扉を閉め歩き出す。

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