「…………うそ…。」
時が止まったように瞬きさえせず俺を見つめていたあかりの口から絞り出される言葉。見開いた揺れる瞳と震える声。
「こんな時に嘘なんてつくわけないだろ…。それも、こんな大事な言葉……。」
「だって……そんなの信じられない…。私なんて他の子より可愛くないし綺麗じゃないし……だいいち!好かれてるなんて感じた事ないよ!」
ぽつりと静かに落とす俺の声を遮るあかり。
その必死な声が反対に、俺の心に冷静さを取り戻させる。
―――おまえだけは特別っていつも言ってるのに。
俺の答えを待つように真っすぐに見上げて見つめるあかりの両肩に手を置き、首筋を撫でるように伝わせて両頬を包む。
びくりと肩を跳ね上げて揺らすあかりの瞳が大きく丸く見開いて、俺を真っすぐ捕らえたまま固まった。
「俺の特別はあかり、おまえだけだ。あの時…おまえに出会ってから。そう決まってるんだ。」
「あの…時…?学校の…帰り道…?それとも…入学式の…前…?」
俺の言葉で甦らせるあかりの記憶は、俺の記憶とは違うもの。
でも―――、徐々に海へと落ちていく、茜色の太陽に照らされたその顔は…あの頃とちっとも変わりがない。
不思議そうに見上げる吸い込まれるようなビー玉みたいな瞳。涙の伝った跡が残る柔らかな頬。その上を拭うように流れるオレンジの宝石―――。
「―――本当に…?嘘じゃ、ない…?」
面影と想い出を重ねながら見つめ続ける俺に問いかけるあかり。透明の映像の向こう側の瞳は真剣で真っすぐだ。
「ああ、嘘なんかじゃない。俺は、あかりが好きだ。」
一言一言、俺の気持ちが、言葉が、心が、あかりの奥底まで届くように。
ゆっくりと、でもはっきりと、その瞳を見つめ返し告げる。
つつつ―――……。
音もなく静かに伝うひとしずく。
透明のカーテンのように映るあかりの子供の頃の顔と重なり、それが儚く消える。
残るのは、目の前にいる今のあかりと、あの頃と変わらない宝石のように輝くオレンジの綺麗な涙―――。
*そして愛に変わるまで*