その日の昼休み、すでに休み時間の出来事なんてすっかりと俺は忘れていて。
いつものように針谷達と昼を共にしようと屋上へと続く階段を上って……。
ようやく扉に手を掛けるという瞬間肩を掴まれ……。
「……なぁ、佐伯。ちょっと…話があるんだけど…。」
それは…誰だか分らない…たぶん同級生。ネクタイの色は同じだし。
「えっ……と。なに、かな?僕、これからお昼なんだけど…。」
なんだか、じゃなく、確実に嫌な予感。
こいつの表情は…つい最近見たような気がする。
何かに必死になっている…藁にでもすがり付きたいと書いてある顔。
「ちょっと話があるんだ!付き合ってくれ!」
「え?あ?なっ、なんで?」
何を言われるんだろうと窺う俺の腕を掴むと扉を開けられ、引きずるようにある一角に連れられて行く。
生徒達が賑わう方向ではなく、給水タンクが設置され足場の少ない日当たりが良くない場所。
そこに待っていたのは―――。
男子生徒達ばかりが……その中にはさっき休み時間に俺を助けてくれたスポーツマンもいた。
「よく来てくれたな、佐伯。」
「きみはさっきの……。」
「あ、さすがに顔くらい覚えてくれたんだな?ラッキー。じゃあ、早速だけど、俺達に恋愛の極意を教えて貰いたいんだよ、佐伯に。」
―――はい…?恋愛の…極…意…?
お前、さっき俺に聞いても無駄だって言っただろうが!
聞くなら……俺。とか、カッコつけてただろうが!
…とはもちろん言えず、引きつったそれでも何とか優等生の仮面を相手に向ける。
「きみ、さっきみんなに僕に聞いても無駄だって…言ったよね?」
「あ〜、言った、言った。」
「だったら僕は必要ないって分かるよね?」
じゃあ、と踵を返しバカバカしい事になんか付き合ってられるかと立ち去ろうとする俺の目の前を数人に塞がれる。
「今回は違うんだよ。モテる佐伯を見込んでレクチャーして貰いたいのは、告白じゃなくその先。」
やたらと能天気なそいつの声に振り向くとへらりと笑う。
*こんなの不条理だ!*