「―――瑛くん!!」
ハッと意識を取り戻させるあかりの大きな声に、黙々と進めていた歩みを止める。
ふと振り返ると、誰もいない浜辺に続く二人分の足跡が所々波にさらわれ消えているのが見え、目の前には俺が掴んだままの手首を俯きながら見つめるあかりがいた。
「……瑛くんの言いたい事は聞かなくても分かってるけど…話って……なに?」
「……分かってるって……なにがだよ。」
「……年上の彼女……いるんでしょ?」
「はあ……。それ、この間も言ってたよな?そんなの―――って……。おまえこそ、はっきり言えばいいだろ?針谷がいるからだーって。俺のせいにするなんて、意味が分からないな!」
どこでそんな話を聞いたのか、さも分かっているというような静かな口ぶりに、大袈裟な程大きな溜め息をつく。
―――自分だって俺に隠してるくせに。
そんな言葉が頭に浮かんで、つい投げやりに、そして喧嘩でも売りかけるような言葉に変わり口から溢れ、弾かれるようにあかりが顔を上げた。
「はあっ!?なにそれ!瑛くんこそ意味わかんない!どうしてハリーが出てくるの!?ごまかさなくてもはっきり言えばいいじゃない!」
「ごまかしてなんかないだろ!彼女とか何とか訳の分からない事を言ってるのはおまえだろ!?」
「いるって言ってたもん!松本くん!!」
「言って、な・い!!つーか、松本って誰だよ!おまえとどんな関係なんだ!」
あかりの口から聞かされる、新しい男の名前に苛々が募り掴んだ手首を弾き離す。
その腕はぶらぶらと振り子のように揺れ、驚いたように目を丸くさせたあかりの口が言葉も忘れたとばかりにぽっかりと開き、睨み付ける俺と見つめ合う。
―――ザザザ…ン……。
指の間から零れ落ちるくらい細かな砂浜に寄せる波が、それを深く広い海へと連れ出す。
規則的な、落ち着く波音だけが響くなか、開いたままだったあかりの唇がぴくりと動き、躊躇うように動いた。
「この間……瑛くん…放課後に男の子達と話してた…でしょ?…松本くん……瑛くんの前に座ってた…よね…?」
窺うように切れ切れに告げるあかりの瞳が、知らないはずないだろとでも言いたげに訝しげに揺れる。
この前という言葉であの放課後だとすぐに分かり、目の前に座っていた奴の顔を記憶の底から掘り起こした。
*一歩踏み出す勇気*