*一歩踏み出す勇気*

―――そんな言い訳…もう、聞くはずなんかないだろ。

周りにいる生徒ばかりを気にして辺りを窺うあかりの手首を掴み、のんびりと帰宅する生徒達の間を縫うように足早に歩く。

真っすぐ前だけを向いているふりをしながらも、気付かれないように少し後方のあかりを窺うと、周りの視線を避けるためか襟足が見えるほど頑なに俯いていて、そんな悠長な場面でも場合でもないくせに噴き出しそうになっていた。

のんびりと歩く生徒達をまるで一人で競争しているように追い越しながら道を行けば、T字路の先に穏やかな波間が一面に光り輝く俺の好きな海。

海沿いからは徒歩で通学する生徒も少なく、すでに人影はない。

―――ここまで来ればもう平気か……。

歩くスピードをゆっくり落とし、脇に鞄を挟んだ手で身体の中に篭る熱を逃がすためにネクタイを緩めた。

「――――も………瑛くん、いたいよ…っ…!」
「あ。……あー……、悪い。もうちょっ……あっち。」
「でも…っ。」
「いーから。こんなとこじゃ目立つだろ。」

腕を引いて制止しようとしているあかりの手首はほんのりと赤く色付いていて、そこまで強く握り締めていたのかと慌てて緩め、息を切らせながら口を開きかけるあかりの上から声を被せて更に引く。

いくら知った顔が見えないと言っても、道の真ん中で押し問答するのは校門での周りの視線で懲りたのか、足取りの重いあかりを連れたまま堤防の階段から浜へと降り立ち、言葉を探しながら踏み締めるように砂浜を歩く。

最初から台詞を決めてあかりを探し出したわけではない。
胸の奥から突き上げるように込み上げた、何か分からない感情でここまで来た。

はっきりとしているのは、今の、この重苦しい空気がイヤな事。

前の、今までの関係に―――。

いや、それだけではイヤな事。

俺の中にあるこの気持ち。

あかりは他とは違う

俺が他と同じではイヤな。

たった一つ、心の奥から沸き上がる――。

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