*一歩踏み出す勇気*

たぶんこの階だけなんだろう…生徒達の楽しそうな笑い声が響くのは。
この休みが明けたら、いよいよ修学旅行。
それぞれの顔が期待に満ちているのがわかる。

その中で浮かない顔をしているのは私だけなんだろうと思いながら、間をすり抜けるように足早に階段を駆け降り、昇降口へと向かう。

「あかり!今からみんなで寄り道して帰ろうって話してるんだけど、あかりもどう?」
「カラオケ!新曲入ったし、あかりも行こうよ!」
「あ〜……、ごめん。私、今日は買い物があるんだ〜。」
「私達も付き合おっか?」
「いい、いい。時間かかるかもだし…みんなは楽しんできて?次は絶対行くから、また誘ってね?」

屈んで靴を履き替えていると、駆け寄ってきた友達の口々の声に、両手を合わせ"ごめん"と謝る。
そんな私に残念そうな顔を見せ、バイバイと手を振り昇降口を出る背中を見送り、少し間を置いて校舎を後にする。

今の私は心から楽しめそうにもないし、それを気付かれたらみんなも楽しくないだろうと、強く誘われなかった事にホッとしながら校門を出ると強い衝撃を肩に受け、驚きのあまりびくりと肩を竦ませ振り返った。

「―――!!!―――て、瑛く……。」
「ちょっと………来て。」
「ちょ、ちょっとって急に言われても…。そ、それにこんな人目のあるとこ―――。」
「―――いいから。黙ってついて来い。…いくぞ?」

怒ったような強い瞳と低い声に思わず立ち止まり辺りを見渡すと、肩を掴んだ掌が下り手首を掴んで引き、何も気にしない様子で歩き出す。
いつもとは違うその強引さに、つんのめるように私の足も動いた。

―――右へ。―――左へ。

ずんずんと生徒の間を大股ですり抜ける瑛くんの横顔を、少しだけ後ろからどうしたらいいのか分からず窺うように見上げる。

ここ数日の私の行動で、瑛くんを怒らせている自覚はある。でも、学校ではどんな事があっても見せる事なんてない顔をさせるほど怒らせていたなんて………。

振り返り目を丸くする生徒達にも気を留める事なく見せる、普段以上の不機嫌な横顔にいたたまれなくなり思わず俯くと、振りほどいて逃げられないくらい強く掴まれた手首が目に映り、どうしたらいいのか分からず涙目になりながら、いつもの通学路である海沿いの道を引きずられるよう歩くのだった。

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