*一歩踏み出す勇気*

「ねぇ、海野さん。佐伯くん―――どこに行ったか知らない?」
「――え?………知らない…けど…。」

HRも終わり、帰ろうかと机の中の物を鞄にしまっていると頭の上から降る声に顔を上げる。
あまりに突然問い掛けられた言葉に戸惑うと、なにを誤解したのかその女の子達は顔を見合わせ、続けた。

「……だって、海野さんって、最近佐伯くんと仲がいいでしょ?もしかしたらなにか知ってるんじゃないかと思って。……ねぇ?」
「…別に特別仲がいい訳じゃないし…授業に出てない理由なら、私も知らないよ?確かに珍しいとは思ったけど……。」

ちらりとまだ空いたままの席を見てから首を振ると、"そうそう"と相槌を打っていた女の子達は顔を見合わせた。
その表情は信じられないと言いたげだったけれど、私がじっと瑛くんの机を見ていた事で本当に何も知らないと納得したらしい。

「どこに行っちゃったんだろうね?佐伯くん。」

去っていく女の子達の会話を見送りながら同じ事を心の中で浮かべ、ぽっかりと空いた席をまた見つめた。

―――もしかしたら……疲れて具合が悪くなった…とか?

例えそうだとしたら、保健室に行ってるだろうし、そうなれば先生にも連絡が行くし、かなり教室がざわついていたんだから一言くらいあってもおかしくない。
なにより、先生すら心配そうに瑛くんの空いた席を気にしてたんだから、誰も行き先を知らないんだろう。

誰にも見せたりなんかしないけど、いつもいつも、人より一生懸命頑張ってるんだから、ちょっと居眠りを始めてそのまま眠りっぱなしもありえるのかもしれない。

いくら暖かいとはいえ、風邪とか引いたら―――なんて考え始め、勝手な心配をするのは自分勝手だと慌てて首を振り机に入れたままの手で教科書を掴み鞄に放り込んで教室を飛び出した。

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