*バレンタイン

冬の海が見たいだなんて、嬉しいような嬉しくないような。

自分が好きな場所を相手も気にいってくれていて、一緒に行きたいと思ってくれている。それは嬉しい。

でも、なぜ時期が真冬の、しかもはらはらと紙吹雪のような雪が舞うこの日なのか。

他に…そう、天候に関係なく暖かで有意義な場所など他にいくらでもあるというのに、寒さが大の苦手な俺を試しているとでも言うのだろうか。

どこかに二人で出かけると決まった日には、俺があかりの家に迎えに行く事が当たり前だったのに、今日に限ってなぜ現地集合なんだと、灰色の空から小雪が舞う寒空の中、待ち合わせ場所である夏によく来る海の入り口、というより俺の家のすぐ近く。低い防波堤に腰を下ろし、海を眺めながらあかりを待っている。

………何気ない顔で。

本当なら立って待っていたいところだけど、この寒さで立っていようものならポケットに手を突っ込み背中を丸め、足踏みをするに決まってる。

そんなところにあかりが来たら、やれおじいちゃんだの、やれサーフィンするくせにおかしいだのと、人の揚げ足を取る事は目に見えていて、今日、この寒い日に海で散歩などと言ったあかりからの挑戦状に、断固として負ける…ぶざまな姿は見せるわけにはいかない。
そんなカッコ悪い負け方なんて俺のプライドが許さないと、立てた片足の膝に顎を預けて波の上に落ちた瞬間溶けては消える雪を見つめ続けていた。

「てーるーくーーん!!」

遠くから聞こえてくる脳天気な声に顔だけを振り向かせると、片手を大きく振りながら俺に向かって駆けてくるあかり。
その声のままの姿につい笑いが込み上げるが、わざと眉を寄せて近付いてくるのを待つ。


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