吐く息が白く煙る。
わざとじゃないかと思うくらいにタイミングよくやって来た寒気のせいで、指先が痛いくらい冷たい。
口許を両手で隠すように『はぁ』と息を吐きかけ、無駄な足掻きと知りながらも温める。
目の前も後ろも人の波。
右へも左へも行けないこの状態では、流れに乗っかって進んで行くしかない。
「………はあ…。相変わらず人込みのゴミだな、俺達。」
「もう、瑛くんってば、毎年同じ事しか言ってないよ?」
「だってさ、ホントにゴミだろ。的を得てるだろ。」
「もう!瑛くん!」
――――頭、頭、頭。
見渡しても人の頭しかない中でため息をつくと、人に押され揉みくちゃになっているあかりが俺を見上げて頬を膨らませる。
温めていた左手を黙って差し出すと、尖らせた唇が緩み笑顔になったあかりの右手がきゅっと握りしめるから、そっと引き寄せ傍に寄らせた。
痛いくらいに真夜中の冷たい風が頬に触れる。まだ新しい年を迎えたばかりの空の下、いつもとは違う時間の初詣でを済ませようと二人で人の波を漂っている。
「あ〜あ。やっぱり振り袖、着たかったなぁ…。」
「バーカ。今日はこんなに寒いんだぞ?絶対今の格好で正解なんだ。あったかいだろ?」
「そりゃあ、あったかいけど…お正月だよ?特別なんだよ?今日しか着られないんだよ?振り袖、着たいよ。」
「バカ。正月は今日だけじゃないんだから、帰ってからも着られるだろ。ほら、見てみろ。あの女子、死にそうな顔してるぞ?」
身体を傾けあかりに顔を近付け、少し前方を歩く振り袖姿の女性を顎で指し示す。
せっかくだからと張り切って着てきたんだろうが、人込みの中でも体感温度は変わらないらしく寒さに震え顔を強張らせていた。
「……本当に寒そうだね?……可哀相。」
「だからあかりは正解だったんだ。いい加減、諦めろ?」
ぽつんと呟き、きゅっと掌に力を込めるあかり。
鼻の頭こそ夜風で赤いものの、俺が釘を刺した通りの暖かな格好のおかげで繋ぐ掌もポカポカと暖かい。
ただ、その目にはやはり未練が残っているのがはっきりと分かり、バカみたいに正直だと繋いだままの手を上げ、あかりのこめかみをこつりと軽く叩いた。
*初詣で