*真夜中

―――カチカチカチ。

シンと静まり返った店の中に響く掛け時計の秒針の音が耳に障る。そういえば、店を閉めてから結構時間が経ってるんじゃないかと顔を上げた。

―――2時、か。

帳簿をチェックし終わったのがちょうど日付が変わる頃。今日は思ったより勉強に集中していたらしい。固くなった首を左右に振りながら少し肩をほぐし、開いていたノートを閉じた。ついでに両腕を上げ背筋を伸ばす。かなり真剣にやっていたらしく、あちこち凝り固まっているのが分かった。
教科書の隣には、カウンターの間接照明にぼんやりと浮かぶ真っ白なマグカップ。中のコーヒーはすでに冷えきっていて、一口飲んでみたものの、やっぱり旨くはなく眉を寄せた。

「……淹れ直すか。」

時間が経ちすぎていて飲み干すには酸味が出すぎている。かと言って喉が渇いていない訳でもなく。
今日の復習も明日の予習もそこそこ終わり、気持ちの切り替えをするのにもうってつけかとマグカップを手に立ち上がった。厨房に回りケトルで一人分の湯を沸かしながらマグカップを水で洗い、頭の中がからっぽの無心のままドリッパーをセット。湧いた湯を注ぎ始めるとすぐさま立ち上る香り高いアロマに大きく息を吸う。吸い込んだ息の分だけ心がさざ波のように落ち着くような気がして、肺にいっぱい溜め込むとゆっくりと吐き出した。

「―――あれ?」

真っ暗な店のカウンターに裏返して置かれた携帯が、テーブルとの隙間から規則的に光を洩らす。
学校が終わってからもマナーモードを解除した記憶はない。
いつから着信ランプが光っていたのだろうかと首を捻りながら淹れたてのコーヒーが入ったマグカップを手に店へと回り込んだ。熱いコーヒーをすすりながら携帯に触れてカチと開く。そこにはメールが一件受信されたと告げていた。

「……なんだよ。こんな時間に。」

学校では使う事などないこの携帯の番号を知っている奴なんてたった一人しかいない。
確認するまでもなく相手が分かり、着信した時間を見る前に悪態をついた。
薄暗さに慣れた目には画面の光が明るすぎて瞬きを繰り返しながらそのメールを開く。


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