*初雪

吐く息が白く煙る。
今年は暖冬らしいがキンと凍るような朝の空気はどうしても暖冬だとは思えないくらい寒い。いつもなら喜ぶべき海からの風も波に乗れないのならただ邪魔なだけ。

……と言うか……寒い。かなり寒い。

足早に…でも、背を丸めて少しでも風の抵抗を受けないように学校へと向かう海岸線。俯きながら顔を強張らせて歩く俺の前方からいつもの間の抜けた声。

「おはよー。瑛くん。……おじいちゃんみたいだよ?」
「……ウルサイ。」

寒さで上手く回らない口から漸く搾り出すように一言呟き顔を上げると、ひやりとする風が頬を撫でぞくと寒気がし肩を震わせまた身を縮込ませた。

「瑛くんって、ほんとに寒がりだよね?真冬でもサーフィンしてるのに変だよ?」
「ぜんっぜん変じゃない。それとこれとは別なんだ。だいいち、海の中は冬でも寒くないし、じっとしてるわけじゃないから寒くないの。」
「じっとしてないよ?歩いてるも―――いたっ!!」
「それは屁理屈って言うんだ。ほら、寒いんだからさっさと行くぞ?」

バカな事を言い出すあかりの頭にポケットから仕方なく出した右手でチョップを落とし、外気の冷たさに慌ててまた突っ込むとあかりを追い抜きさっさ歩き出すと「待ってよ〜!」と近づく声が隣に並び、まだ他の生徒もいない道を遮る視界が白く煙る中二人並んで歩く。

空気は凍るように冷たくても、競うように歩くせいか身体の中は暖かく校門へと辿り着く頃には当たり前の事だがポケットにしまった手が少し汗ばんでいて少し冷えた空気にでもさらすかと抜き取ると、何を考えたのかあかりの小さな手にさらわれた。

「…バ、バカ!なにするんだよ!」
「なにって……。誰もいないし学校でも手を繋いでみたいな〜って。」
「バカ。そんなのバカップルだろ!じゃなくて!手!」
「……手?手がどうかしたの?」
「どうかしたの?じゃなくて、汗ばんでるだろ!俺の手!」

どういうわけか離そうとしないあかりの手ごと縦に振り回す。…が、思ったよりがっしりと掴んだあかりの手は離れる事はなく、何故かきょとんと見上げられ勢いよく振り続けた腕を力なく降ろす。

「…………。」
「面白かった?」
「面白くない。だから、俺の手、汗かいてるの。気持ち悪いだろ!」
「……そうかなぁ〜。別に気にならないけど。あったかくて気持ちいいよ?」
「―――――っ!」

繋いだ手を自分の胸元辺りまで上げながらまじまじと見つめるあかりの視線にそこに目がある訳でもないのにカッと熱くなりまた掌が汗ばむ気がする。それを悟られるのはかなり恥ずかしい気がして、慌てて自分に引き寄せ校内へと向かって歩き出した。


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