*遺伝子

私だけのってどういう意味だよ。
豪華特製ケーキが自分のものなのか、俺が作ったから特別なのか。
前者ならただの食い意地、後者なら…後者なら。
あかりの何気ない一言が頭の中をぐるぐる回る。
俺を惑わせる言葉を発した張本人は、片手を頬に当て満面の笑みを浮かべながらケーキを頬張っている。これはどう考えても前者だと、心の中で溜め息をついた。
……ホントに俺ってバカみたいだ。なんだかんだ言って気を引こうとしてるんだもんな。

「瑛?考えてる言葉をちゃんと口にしないと、伝わる事はないんだよ?」

ふと頭にそんな言葉が浮かぶ。
あの時のあの後の言葉、なんだっけ?

「僕もね。なんとか彼女の気を引こうと色々…本当に色々やってみた。店のメニューを全部注文したり、とかね?でも、そんな事に意味がなかった。怒らせるという意味では十分にあったのかもしれないけれど。」

開けた窓から聞こえる波音。
寄せては返すその音にくすくすと楽しそうな笑い声と懐かしそうな声が混じる。

「結局、彼女が僕をただ一人の人として見てくれたのは、その言葉を口にした時だったんだよ。瑛はあの頃の僕によく似ている。そうやってお嬢さんの気を引こうとしているところなんて特にね。だから、人生の先輩として、いや…可愛い孫の為に言うよ。好きなら好きとはっきり言いなさい。」

ああ。そうだったっけ。
あの時はそんな訳ないとか、そんなんじゃないとか。
そう言い返したんだ、じいちゃんに。
実際のところ、俺はこいつを…なんて考えたのも最近だし。つーことは、じいちゃんはかなり前から俺でも気付かない俺の気持ちを分かってたって事なのか。

「―――くん?…瑛くん?」
「―――え?呼んだか?」
「呼んだって…目の前にいるのに。変な瑛くん。」
「こら、変ってなんだ変って。そんな事言うならやっぱり没収。」

きょとんと俺を見つめるあかりの前にまだ残るケーキの皿を持ち上げると大慌てで両手を伸ばす。これくらいの事で涙目の情けない顔にやっぱり笑いが込み上げ、何度からかっても面白いと皿を戻した。

「………なぁ。さっきの話だけど。」
「―――さっき?」
「もう忘れたのかよ。さっき。似てるとこって言っただろ?」
「うん。やっぱり似てるの?」
「さあ?でも、じいちゃんの遺伝子が一番強いんじゃないか?」
「マスターの?どんなとこ?ねぇ。」
「ひーみーつ。自分で見つけろ。」

ケチだのなんだの、またフグ提灯面のあかりを無視して、空いた皿を片付ける。
ぼんやりなあかりにはきっと俺とじいちゃんの似てるとこなんて気付きっこないし。

それ以前に、自分自身似てるとこなんて分かってないけど。

あかりが気付いてあかりに教えて貰うのもなんだか楽しそうな気がする。
あかりに特別視されたい――なんて、子供っぽい願望は秘密。

看板を出す為に近付く扉から見える外の景色と光が、未来への希望と重なり心も弾む。いつもよりも自分の声まで明るくなった気がして小さく笑うとあかりに振り返った。

「さーってと。店開けるか!」

END


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