*遺伝子

ミントの葉を飾り付け、チョコレートソースで皿に軽く化粧し珊瑚礁ブレンドを念入りに淹れる。頭の中ではさっきのフグ提灯面を記憶から消す作業。代わりに描くのは、目の前の海。

沖に向かってパドリングからテイクオフ。
オフザトップでランディング。
それから…それから。

脳裏に焼きついたあかりの顔をイメージトレーニングで消し去りトレイに皿とカップを乗せたソーサーを置く。陶器の上で震えるスプーンの音が心地いい。
すっきりさっぱり平常心を取り戻し厨房の裏から店に出ると、窓際のテーブル席に腰を下ろしたあかりもふくれっ面は直ったようで、俺の知らない歌を口ずさみ窓の外を眺めていた。

「……お待たせいたしました。珊瑚礁ブレンドと期間、数量共に限定。特製ケーキのセットでございます。」
「わぁ…可愛い!!ね、ね。これって新しいメニューなの?」
「ええ。今日からの限定メニューでございます。…まぁ、ここまではしないけどな。」

目の前に並べるコーヒーとケーキに目を輝かせるあかりはさっきまでの事をすっかり忘れているようで、相変わらずの単純さにまた込み上げる笑いを店用の作り笑顔に変え向かい合わせに腰を下ろす。両手を胸の前に組んだままぽっかりと口を開けて皿の上に乗っかっるケーキを見つめたままのあかりは、喜怒哀楽がはっきりとしていてこういうものを食わせるのが案外楽しい。

「ほら。早く食わないと店開ける時間だぞ?」
「ね、ね。このお皿の模様、これが期間限定?」
「バ・カ。それは数量の方。見れば分かるだろ。」
「ね、ね、ね。アイスは?これが期間限定?」
「バ・カ。こんなに盛り付けたら赤字だろ。これも数量限定。」
「じゃあ、じゃあ。いくつ限定なの?」
「これ一個に決まってるだろ。あー…。もういいから黙って食え!」

漸く食う気になったのか、フォークを手にするあかりが皿に乗ったスィーツひとつひとつを指さしながら俺を見つめる。期待に満ちたその瞳は答える度に輝き、なんだか妙に恥ずかしくなって思わず口が悪くなり椅子にふんぞり返る。
これじゃあ、俺にとってあかりだけが、本当の本当に特別だとバラしてるようなものじゃないか。

「これだけ…特別。これだけ。」
「だ・か・ら。さっさと食う。じゃないと片付けるぞ?」
「あー!!ダメダメダメ!特別なのは私の、私だけのなの!だからダ、メッ!」

俺が言うその部分だけをぶつぶつと呟き続けるあかり。
心の中を強調された気がして益々恥ずかしくなる。これ以上は堪らないとケーキが乗った皿をひょいと取り上げると、ガタリと椅子を鳴らしながら立ち上がり、俺の手から皿を奪い去ってまたテーブルに置いた。
満足そうに腰を下ろしたあかりがやっと口に運ぶのを、落ち着かない気分で眺める。



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