いつもとは違う場所。いつもの制服姿ではない目の前の…少し、いや、本当はかなり目を惹くあかり。
去年よりもドキドキと五月蝿い心臓の音を感じながら、掌に収まった小箱の蓋を開けた。
ころり。
目の中に飛び込む、箱の真ん中にそっと置かれたそのチョコの印象。
丸みを帯び、立体的に形とられた一口程のハート型。光沢のある表面が日差しに光り、見るだけで試行錯誤…いや、あかりの事だから、かなり頑張ったんだろうと分かる。
「……上手く出来てる、と思う。」
「ほんとっ!?…よかったぁ〜。」
つい本音で呟く俺の小さな声に、さっきまでとは違う輝く笑顔。今までの尖ったような空気がふわりと柔らかくなる。
「…サンキュウ。……ホントに嬉しい。なんか…今までで一番。」
何年も何年も。こうやってもらう事が嬉しいものじゃなく、むしろ苦痛に感じる事ばかりで、忘れていた…と言うより、知らなかった感情が心の奥深くから込み上げて、溢れる。
「……さっきは…ごめん。言いすぎたし…ホントはいつもと違うって、なんか違うって、分かってた。………いつもより…可愛い…かな…とか。」
「ほんと?」
「ほ・ん・と。…嘘ついたって仕方ないだろ。つーか、さらっと流せよ、恥ずいんだから。」
「ふふっ。じゃあ、こうやって。お散歩しよ?今日は特別な日なんだから。」
正直な気持ちなんて、それ以前にこういう台詞なんて俺らしくない。
恥ずかしくなり、赤くなった気がする頬を隠すように顔を背ける俺に、さっきまでとは違い、くすくすと笑いながら腕を絡めるあかり。
ふわり。
また、暖かな空気と共に香る甘やかな香りが、鼻腔を、心を擽り、ゆっくりとその横顔を見つめ、やっぱりそこに目を奪われてしまう。
せっかくの…二人っきりのバレンタインなんだし…俺だけのチョコなんだし…いいよな?そう思った瞬間、ここが何処だったかなんて忘れて片手が動いた。
「…………あかり?」
「なぁに?瑛く………ん、っ………!?」
掌の中に収まる箱からチョコを摘み、俺の腕に絡まるように並ぶあかりの口へと放り込むと、その艶やかな唇ごと、甘いチョコの味を確かめるのだった。
バレンタイン
END