*バレンタイン

砂浜を踏み締めるようにずんずんと歩み続けるあかり。
慌てる俺の足は砂に捕われながらもようやく追い付き隣に並ぶ。

「ちょっ。なにを怒ってるんだよ。」

「………別に怒ってないです。」

「怒ってるだろ!」

「怒ってなんかないです。」

「いーや、怒ってる!めちゃくちゃ怒ってる!」

その横顔はやっぱり頬がはち切れるくらい膨らんでいて、あかりの足に合わせて砂浜を真っすぐに進みながらも、身を屈めて顔を覗き込んだ。

あかりが怒る理由が見つからず慌てる俺の声がひっくり返ったのに気付いたのか、それまで正面だけを見つめ続けていたあかりの瞳がちらりと俺を見て、ぴたりと足を止める。まさか立ち止まるとは思ってなかった俺は、あかりより三歩進んでしまい後退りした。

「……ちょっ。急に止まるなって。俺、カッコ悪いだろ。」

「……………………。瑛くん、気付かないんだもん。」

「……だから。なにを。」

「今日……なんの日?」

「………は?今日?……今日、……今日。今日は日曜日、だろ?」

眉を寄せながら文句を言う俺を見る事もなく、いつの間にか膨らんだ頬を戻して俯くあかりの漏らす呟きがしょんぼりとしていて、仕方なく問われた言葉を繰り返しながら考えるとガバと顔を上げた。

「ち・が・う・の・!曜日じゃなくて、な・ん・に・ち・!?」

「な、何日って……。14日、だっけ?」

「そうなの!14日なの!今日は2月の14日!」

「…………………あ。」

両手で持つ鞄を胸の辺りで上げ下げしながら物凄い勢いで突っ掛かるあかりの言葉に、漸くあかりが怒る理由が分かり言葉を途切らせた。

「バレンタインデー、か!」
「バレンタインデーなの!」

今年は日曜日だという事もあり、この面倒臭く欝陶しい年間行事は前倒し。つまり学生参加は金曜日、という事で、俺が顔の筋肉をつらせる程の愛想笑いをする日は12日。すでに終わったとすっかり記憶の中から消去をしていた。

たしかに12日当日はあかりからだけ何もなく、本人はいたって普通の日常と変わら……なくもないか。



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