*バレンタイン

「ごめんね?待った?」

「……かなり。つーか、誘った方が大遅刻って…なに?」

「だ、だって、いろいろ用意してたら遅くなって。…う、…ごめんなさい…。」

「……別にいいけど。…怒ってないし……。」

わざとらしいともいえる俺の不機嫌さにも気付かず、しょんぼりと頭を下げるあかりの恰好は、用意していたとの言葉通り白いショートファーのジャケットにふわふわとしたピンクのフレアのミニスカート。
同じようなふかふかとした白いバックを持ち、この寒空の中でも暖かそうな柔らかそうな、とにかく俺好みの服装で、つい締まりなく笑ってしまいそうになる頬を隠すように海へと視線を向けた。

ふわり。

そんな言葉がいちばんしっくりくるような甘い香りと共に、あかりが俺の少し後ろに立つ。

普段なら香水だのといった類いはつけないあかりの香りに視線だけを向けると、防波堤に手をつき身を乗り出すせいで間近に横顔が近付く。

柔らかそうな白い肌。寒さのせいか、少し赤らんだ頬。ふっくらと艶のある唇。

なんとなく、いつもと違うような。
でも、いつもと同じだと言われたらそんな気もする。なにがなのか、どこがなのか。
何故か目を奪われてしまうあかりの横顔を視線だけで見つめていると、文字通りキラキラと瞳を輝かせた顔を俺に向けた。

「ね、ね、瑛くん。どう?」

「………なにが?」

「わ・た・し・!……いつもと違う…でしょ?」

「…………………。どこがだ?」

なにかを期待する子供のようにぐいと近付けるあかりの顔に、身体を捻って向けてまじまじと見つめるものの、やはり僅かに感じる違和感だけで、なにがいつもと違うのか、その違いが分からず首を捻る。

途端に頬をみるみる膨らませ、身をひるがえすとズンズンと大股で歩き出し、近くの階段から砂浜へと向かう背中はまさに怒っていると訴えていて、防波堤から下りると慌ててその背中を追った。



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