*子供時代

「……………瑛くん?どうしたの?電池ぎれ?」
「………そんなわけないだろ。俺は何で動いてるって言うんだよ。」
「もちろん瑛くんの原動力は………なんだろう?」
「バカ、言うなら最後まで思い付いてから言え。………ちょっと考えごと。たいしたことじゃないよ。」

そう、たいした事じゃない。
ただ、俺の記憶にだけあるおとぎばなしみたいな昔話。

あかりの記憶にはきっと残らないくらいの出来事。

それでも、もしかしたらあの頃の写真を見せたら………あの時の約束も、俺の事も、思い出して………。

なんて、無理か。どう考えてもあかりは人並み外れたぼんやりだ。この街に来た記憶もおぼろげみたいなのに、そんな都合のいい、それこそおとぎばなしみたいな事なんてありえない。

頭の中に浮かぶ自分に都合のいい解釈に苦笑いを浮かべて口に付けたカップをテーブルに戻す。

「さて、っと。もう充分休憩しただろ。続きやるぞ?つーか、さっさと終わらせるぞ?」
「えー?もう?」
「当たり前、このままじゃ夜中になっても終わらないだろ。早く終わらせてどっか行こう?少しくらいなら 時間もあるだろうし。」
「はーい。じゃあ終わったら海でお散歩ね?夕日が沈む海が見たい!」

今からじゃ遠くまで出かける時間はないから、そんな事は分かってるくせにあかりの一言でまた夢をみる思考が浮かびそうになる。

でも、あかりの記憶の奥底にあの日の海の色が残っているのなら……。

いつかそれが蘇ってくれる事が、そんな日がくるかもしれない。あの日に見たあの海の色、同じ色がいつかこの先のいつか。

「………分かった。そのかわり、俺はスパルタだからな?覚悟しとけよ?」

あかりが俺を思い出せる日が来たら、アルバムを取りに帰ってもいいかも。

そんなことをふと思いながら、あかりにとって難関である数学の教科書を開き、やる気を見せるように腕まくりを見せてあかりを青ざめさせるのだった。

子供時代
END


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