*子供時代
「…………あるわけないだろ。」
「なにが?」
「なにが?って、今アルバムの話だろ。……ここにはないって言ってるんだよ。」
「えー?どうしてー!?」
なにを誤解したのかこの世の終わりのように驚くあかりに、こいつ本当に分かってないのかと反対に呆れ返る。
あかりには多少の事情は話してるはずだし、ここには俺以外住んでる人間はいないのも、この部屋が元はじいちゃんのアトリエだった事も話してある。
やっぱりぼんやりすぎだ、なんて頭の片隅で考えながら、納得しない顔のあかりに口を開いた。
「俺が家を出てるのは知ってるだろ。アルバムがあるとしたら実家って分からないのか?」
「……………あ、そっか。瑛くんって高校に入った時にここに来たんだっけ。小さい頃の写真なんてあるわけないんだよね?」
「そういうこと。だから俺の子供の頃の写真を見るのは不可能なの。」
「…………そっか。…………残念、見たかったのにな。ちび瑛くん。」
「なんだそのちびって言うのは。………まあ、確かにそうだったかもしれないけど。」
あかりのカップを目の前に戻し自分のカップに口を付けながら子供時代の記憶を辿る。
あまり大きい方じゃなかったか、とか、よく近所のガキ大将と喧嘩してたっけとか。
あと、素直じゃなかったとか。
それと………こいつに会ったのもそんな時だったっけ…………と。
あの時も海辺を遊び場にしている地元のガキ達となにかの言い合いになって、体格差で勝てないと判断した俺が先制の砂かけ攻撃で泣かせて………じいちゃんに叱られたんだ。
それで夕暮れ前の浜をふて腐れて、一人で歩いてたら迷子になったこいつと―――。
そう、オレンジ色に染まる世界で―――。