少しずつ進める足、たわいもない会話。
人込みの中にはいるけれど、穏やかに流れる時間。一人だったら、どうでもいい奴とだったら退屈で苦痛なくらいの人込みの中も、あかりといるだけでそれほどではなく。
ざわざわとはっきりとした言葉では聞こえない人々の声、じゃりじゃりと玉石を踏み締める足音。
その喧騒とも言える音の中からあかりの声を拾おうと頭と身体を傾け近寄らせながら、ゆっくりと一歩一歩、穏やかな波間を揺らぎ漂うように境内へと進んだ。
「ほら、あかりのぶん。」
「ありがとう。」
ポケットに用意していた小銭をあかりにも手渡し、一度見つめ合う。『なにを願うんだ?』とお互い同じ事を頭に浮かべているのが分かり、くすりと噴き出してから手を合わせた。
まずはもちろん商売繁盛。これが一番大事で、これのために来ていると言ってもいい。あとは…………。
普段から神なんていない、と豪語している俺が願ってもいいのか。
少し不安なところはあるけれど、どうせここにいるほとんどの人間が同じはずだと手を合わせ続けた。
「………ふぅ。これでよし…っと。あかり……?」
頭(こうべ)を垂れ手を合わせていた俺が頭を上げ隣に顔を向けると、例年通り熱心に祈り続けるあかり。
………やっぱり面白い顔、だよな……。
どんどん深くなる眉間のシワは相変わらずだし、それどころか……これは俺の気のせいじゃないはず。
……時間………長っ!!
いったいなにをそんなに願う事があるんだ?毎年、毎年、なにがあるというんだ。まさか10も20も願い事があるわけじゃないだろうに。
最初こそ面白がって見ていたものの、左右の参拝客が何度も入れ代わり、後ろの参拝客の咳ばらいに冷や汗をかきながら『すみません』と頭を下げて祈り続けるあかりをなんとかしようと手を伸ばす。
「これでよしっと!……あれ?瑛くん、どうしたの?」
「どうしたの?じゃない!遅い!さっさと退く!」
「いたっ!なに?なんで?」
*初詣で