シンと静まり返った通学路にパタパタと傘に当たる雨音だけが響く。
話す事などいくらでもありそうなのに、口から出るのは真っ白な息だけ。
本当はちょっとだけ、ほんのちょっとだけ。あの男子生徒が気になってる。
なんだか楽しそうに笑ってたし?妙に親しそうだったし?
だけどそんな事なんて聞いたら、俺があかりの事見てたのがバレるわけだし。
なんかヤキモチ妬いてるみたいで格好悪いし。
「……………はっ、くしゅっ…。あー……さむっ。」
「……瑛くんって、本当に寒がりだね?」
「ウルサイ。仕方ないだろ?寒いものは寒いんだ。」
「それ、理由になってないよ?……仕方ないなぁ、そんな寒がりな瑛くんに…クリスマスプレゼント、です。」
トンと一歩先に進んだあかりが俺の前で立ち止まるから、仕方なく俺も足を止める。
肘にかけたバックからなにかを探すのを、なんだろうと見つめると、ふわりと視界に広がるなにかが首に巻かれた。
「……あっ…たか……。これ………?」
「見たら分かるでしょ?マフラー。……ちょっと編み目がバラバラだから、あまり見ないでね?」
「え………?手編……み?あかりが?」
「そんなにびっくりする事ないと思うんだけどな。ちゃんと密さんに教わったから、解ける事はないよ?」
「………なんで、俺…に?つーか…俺、なにも用意してない、んだけど…。」
「いいの!私が渡したかったの!瑛くんは特別な人だから!それに……ほら!特別な日に一緒にいるんだから!こんな素敵なプレゼントもあるし!」
トントンと後退りするように俺が傾ける傘から逃れ、差し出すあかりの掌に白い塊がふわりと落ちる。
さっきまでとは違い、雨が雪に変わっていた。
「偶然だけど素敵なプレゼントでしょ?思い出になるクリスマスにならない?」
ふわふわと辺りに舞う雪の中であかりが俺に向かって笑う。
それだけでさっきまでの事がどうでもいいような気がしてくる。
首に巻かれた温もりが、俺だけは違うと教えてくれている。
――――俺、単純すぎ。……まあ、いいけど。
子供のような…子供の時と変わらない笑顔のあかりに、いつか言えたら…。
俺は昔からあかりが特別って―――。
その言葉を首に巻かれたマフラーに口付けて飲み込み、聖夜のプレゼントを受け取るために小さな傘を閉じたのだった。
END