*聖夜

「……うわ…、さむっ!」

まだ盛り上がる体育館。
適当に愛想を振り撒き、人目につかないようにこっそりと表に出る。

人の熱気で室温が上がった場所から急に表に出たせいで、余計に寒さが身にしみ腕組みをして震え上がった。

やっぱり来なきゃよかった。
ただ疲れただけでなにも楽しくなんかない。

早く帰って来過ぎだとじいちゃんに叱られる気はするけど、こんなとこにいるよりは叱られて店に立ってる方がいい。と、歩き出して気付く。

「なにも今降らなくたっていいだろ。……はあ…なんか、とことんツイてない…俺。」

真っ暗な空から降るのは、雪になれなかった雨。つまりはみぞれ。
帰るまでは大丈夫だろう、と傘すら用意しなかった俺に容赦なく降り注ぐ。

濡れるのは嫌だけれど、このままここにいたらまた女子に捕まって、最悪家まで送るとか言われたら……。
それだけは勘弁してくれと、濡れるのを覚悟で校門を潜り抜けた。

吐く息は真っ白で頬に当たる粒は痛くて冷たい。

帰ったら真っ直ぐ風呂だ。なんかツイてない今日の垢を全部落としてやる。

走って帰ろうと俯いた顔を上げた瞬間、不意に止む雨と視界に入る赤。
なんだろうと見上げると小さな傘がゆらゆら揺れた。

「………濡れちゃうよ?ね、一緒に帰ろ?」
「…………なんだよ……まだ終わってないだろ。」
「んー……、そうなんだけど……瑛くんと話したいなーって思って。」
「嘘つけ。ヘラヘラしてたくせに。俺の事なんて覚えてもなかったろ。」
「ヘラヘラなんかしてないよ!…ずーっと、瑛くんの傍に行きたかったけど…みんながいたし…迷惑かなーって。」
「………おまえに傘を任せたら俺の頭に穴が開く。………貸して。」

振り向かなくてもあかりが背伸びをして傘を傾けているのが分かる。
追いかけて来てくれたのが嬉しいくせに、素直に気持ちを伝える事が出来ずに振り返りざまにあかりの小さな手から傘を引ったくるように奪った。



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