*聖夜

……………やっぱり来なきゃよかった。

ざわつく、というより、人で溢れる体育館。
それらしく飾り付けられてはいるけれど、やっぱり日常が隠れきれるはずもなく。
正装された生徒達の間から学校の面影がちらちら目に入り、皆が盛り上がるなかで俺のテンションは下がる一方。
それを上手く隠してにこやかに、穏やかに。いつもの顔でぐるりと取り囲む女子生徒達の相手をする。

「佐伯く〜ん!メリークリスマス!すっごぉく格好いいよね〜!王子様みた〜い!」
「あははは。それは大袈裟だよ。それに、もしそう見えてるのだとしたら服のせいだと思うし…他のみんなだって…ほら。」

なにが王子様、だよ。そんな恥ずかしい台詞なんてよく言えるよな。

不機嫌になりそうな顔を隠すように、乾いた笑いで誤魔化しながら辺りを見渡す。と、会場の端の方で輪になる生徒の中に、いつも俺の傍にいるあいつの姿を見つけた。

――――ったく。なにヘラヘラ笑ってるんだよ。俺がこんなに大変な目にあってるってのに。

ふわりとした水色のドレスを身に纏ったあかり。誰だか知らない男子生徒と仲良く話してるのが見える。
馴れ馴れしくあかりの肩に手を置く男子に向かって笑顔を向けているあかりに小さく舌打ちした。
ホントに―――、なにヘラヘラして隙だらけにしてるんだよ。あいつのニヤけた顔に気付いてないのか?相変わらずぼんやりにもほどがある。

今すぐ近付いてあかりの首根っこでも捕まえて、あんな男子生徒の傍から引き離したいとこだけど、これだけ他の生徒の目があるとそんな事も出来やしない。
なによりここは学校の中だし。
明日…いや、次のバイトの日には、特大チョップをおみまいしてやる。

これ以上あかりを見ていたりなんかしたら、ついここが学校だという事を忘れかねない。と、あかりがいる人の輪に背中を向けるとタイミングよく生徒達の動きが活発になった。

「メリークリスマス!ホーッホッホ!きみへのプレゼントはこれ。」
「あ……どうも……すみません。」

やたら棒読みな仮装したサンタクロースから差し出される包みをどうでもいいと思いながらも受け取る。

あれは教師…なんだろうな。まったく…子供騙しすぎるんだよ。

下がる一方のテンション。
こんなことなら、やっぱり店に残ればよかったんだよ。

また一つ、大きな溜め息。



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