朝からずっと色のない世界。
正確には灰色の、重く、圧迫するような雲が広がっている。
「雨、降らないといいんだけど、な………。」
そんな呟きが漏れるのは、今日が特別な日だから、ではけっしてない。
そんな事で浮かれてるのは、頭の軽いバカップル達だけ。俺は今日という日にいかに売上を叩き出せるか。一年間の締めくくり、気分よく一年を終えて気分よく一年を迎える。
そんな大切な、一年の集大成とも言える一日…いや、正確には二日をいかに過ごすか。それだけしか頭の中にはない。
「……ツリーも店の中の飾り付けもよし。食器は特別仕様…ケーキも大丈夫。照明落としてキャンドル……。あとは……あ、あとは外!」
念のために一つ一つ指差し確認。
店内を目と声でチェックを入れながらくるりと一回りし、ドアの外にかかったリースが目に飛び込んで慌てて外へと飛び出した。
「………リースよし。看板……も大丈夫。出窓から見える小物も完璧。」
ここまで雰囲気よく仕上げられるなんて、さすが俺。
強く吹く北風に身を縮めながらも、満足な出来栄えに頷き少し離れたところから店を眺める。
「瑛?何をそんな所でのんびりしているんだ。そろそろパーティーの時間じゃないのかい?」
「………え?もうそんな時間?つーか…別に出なくていいし。店、大変なんだから…休もうかな?やっぱり……。」
「何を馬鹿な事を言ってるんだ。今日という日は一日しかないんだから、楽しんでくるといい。その為に準備もしたんだろう?」
「いや、そんな大袈裟なものじゃないし、別に準備とかして―――って。分かった!分かったってば!行くから!」
珍しいくらいの鬼の形相にじいちゃんの隣をすり抜け慌てて店の中へと戻る。
イベントという名のつくものを大切にするじいちゃんは学校行事にも積極的で、今までだって一日たりとも休ませてくれた事はない。
普段穏やかなくせに、一度怒り出すとかなり怖いというか…容赦ないんだよな。
遅刻でもしようものなら小言の後に無言の圧力が待ってるに違いない。
部屋に戻って着替えをしながら、大きな溜め息をついた。
*聖夜