01 アンビバレント

連休も過ぎ5月も半ばになると、学校生活に慣れてくるのか、生徒達の浮ついたようなざわめきも少なくなってくる。
とはいえ、この学年、その上このクラスは少し特殊というか例外で、ある人物の周りはいつものように華やかな声に満ちあふれていた。
朝と言わず昼と言わず、授業毎の休み時間にも気が付けば捕まっていたりするけれど、ただのクラスメイトの私にはどうする事も出来ず、遠巻きに凄いなあと眺めているだけだった。
そして、私とは違うけれど何か思うところがある人物が数人。

「ほんま、毎日飽きやんなぁ」
「飽きねぇのはテメェだろ、西本。昼休みにも来たばっかだろうが」
「あたしは天音に用があるから来とるんや。なんやハリー、もしかしたらハリーもあんな感じになりたいん?」
「ちげぇよ。あんなのと一緒にすんな」
「二人とも喧嘩しないで。それではるひちゃん、どうしたの?」

ハリーと机を並べる通路に立つはるひちゃんがやれやれと大袈裟に首を振る。
二人が言っているのは勿論私の後ろの集団の事で、その中心人物は勿論佐伯くんの事だった。
はるひちゃんは声を落としているけれど、ハリーはおかまいなしの大きな声なので、聞こえたりしたら大変と二人をなだめる。

「あんな?天音辞書って持っとる?」
「辞書なら今日授業で使ったから持ってるよ?忘れちゃった?」
「そうなん!うっかりしとったわ」
「お?なんだ?珍しく勉強か?嵐でも来るんじゃねぇだろうな」

ゴソゴソと机の中から他とは違う分厚い本を取り出すと、目を輝かせるはるひちゃん。
どうぞと手渡すとチャチャを入れるハリーに振り向き、その辞書を片手で振り上げた。

「来るわけないやん!それはハリーやろ?」
「オレ様は置き勉だからな。そんなもんは来ねぇよ!」
「まあまあ、はるひちゃん。それにハリーも。威張る事じゃないよ?」

殴るフリだけなのは分かっているけど、分厚い辞書だけに勢いでフリじゃすまなくなるかもと、立ち上がってはるひちゃんを宥める。
忘れ物をしないって胸を張るハリーだけれど、それはつまり家では勉強しないって事だから、あんまり威張れる事じゃない。
そこで、ひとつになっていた嬉々とした声が、バラバラになる感じがした。
時計を見上げると休み時間が終わるのが近い。
女の子達が入り口に向かうのに気付いたはるひちゃんも、同じように時計を見上げた。

「あー!もう休み時間終わりやん!」
「今日はもう使わないから辞書、慌てなくていいからね?」
「ありがとな天音!帰り持ってくるわ〜!」

バタバタと女の子達の後を追うように教室を出ていくはるひちゃんにバイバイと手を振ると、学校用の笑顔を浮かべていた佐伯くんが小さく肩で息をしながら机の中から次の授業の教科書を取り出す。
はるひちゃんを意地悪い笑顔で見送るハリーはちょうど背中を向けていて気付く様子はない。
この一年で慣れたもののやっぱり毎日大変なんだろうなと見下ろしていると、私の視線に気付いた佐伯くんが眉間に皺を寄せた。
さっきの笑顔とは大違い、なんだけれど、それを言ったらきっと後で反撃のチョップをお見舞いされるから慌てて席に着いた。
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