01 指先で約束

なにか。なにか忘れているような気がする。
朝の光が窓から差し込む。眩しさに目を細めながら、目覚まし代わりにしている携帯の画面を開けた。いつもよりは遅く起きる朝。万年寝不足を解消する程には眠れた訳ではないが、すこしは頭がすっきりしたような気がする。

「なんだっけ…。」

休み前に仕入れは万端だから店の事ではない。あと考えられるのは、予習復習。これもすでに終わらせて、休み最終日に目を通すだけでいいはず。
それ以外に忘れそうな事はと思考を巡らせ、ふと思い出した。

「そうだ!にしも……っ!」

思わず口走った言葉と共に飛び起きてもう一度携帯が告げる時刻を確認する。

−−−8時半を少し回ったところ。

確か、西本が言っていたのは10時。ベットから飛び起きて、はたと気付く。

「俺、行くなんて言ってないし。」

あいつは俺の答えなんか聞いてなかったんだから、のこのこ出掛ける必要なんてないじゃん。連絡先も知らないんだし、学校始まったら適当に誤魔化せば……。

「あーーー!もう!」

身体から布団を剥いだ状態で少し考え、その考えがなんとなくモヤモヤして頭を掻きむしった。

「真面目なんじゃなくて義理堅いんだ、俺は。」

結局、言われた時間よりも少し早く。この場合は、ただバスの時間で仕方なく…だが、言われた場所に降り立っていた。呟いた言葉は誰かに向けたものではなく、ただの独り言。そうでもしないと、心が折れてしまいそうだ。

「せっかくの休みになんで……。」

作った俺でいなきゃならないんだ。と言い掛けて、その目的地の入り口に佇む見知った人物に言葉を失った。

−−−なんであいつがいるんだ!

今日、俺がここに来る事をあいつに話してなんかない。そもそも、ついさっきまで俺自身が西本に誘われた事を忘れていたのだから。
それなのになぜ。いや、どうしてこんな所に、しかも一人で居るんだ。
のんきそうな顔で空を見上げているその見知った相手の場所に真っ直ぐに近付く。
よくよく考えれば、こんな場所に一人で遊びに来るバカはいない。ざわざわと沸き立つような気持ちを抑え、まだ俺に気付かない相手の名前を声にした。

「天音?」

意識が戻ったようにひとつ瞬きをする。そんなに近付いている訳でもないのに、その瞬きで揺れる長い睫に一瞬目を奪われた。
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