01 覚えてる
二年目の学校生活は一年前の今よりも穏やかに過ごせていた。
二度目な事もあってクラスの誰もが無駄に浮かれている事はなかったし、あえて言えば下級生が遠巻きに眺めているだけ。
見世物の動物状態は相変わらずだったが、下級生という遠慮があるからか視線を向けなければ見られているだけで、肉体的なダメージはない。
ただ、それも去年と比較しての事だけであって、精神的なダメージは相変わらずだった。
表面的な穏やかさというのはある人物にもいえる事で、あの日から今日まで取り立てて変わった様子もなく学校ではいつものようににこにこと笑い、店ではくるくると動き回っていた。
あの色を失ったような表情はいったいなんだったんだろう。
学校と店、毎日の忙しさに追われ、いつの間にかそんな事も考えなくなっていた。
「佐伯くん。一緒に帰らない?」
「俺、急ぐんだよ、知ってるだろ?」
「うん、知ってる。でも、同じ方向だし。」
いつものように他の生徒がいなくなる海沿いの通学路。
少し離れて歩く天音がいつものように俺に追いつく。
いつものように会話して、いつものように並んで歩く。
「あ。おまえさ、連休用事とかある?」
「別にこれといって予定はないけど……どうして?」
「マスターがさ、一日出て来れない日があるんだよ。俺は一人で大丈夫って言うんだけど休むって聞かなくて。おまえがいればそう言わないかと思ってさ。まぁ、実際俺一人で大丈夫だし、無理に出る必要はないんだけど。とりあえず、じいちゃんに聞かれたら話合わせてくれればいいから。」
目の前に来る大型連休。
一日中店に立てると喜んでいた俺にマスターであるじいちゃんが中休みを告げたのは昨日の夜のことだった。
休みにするつもりらしい日にちはちゃんと教えてくれなかったけれど、どうやら天音がシフトに入っている曜日ではないらしい。
じいちゃんに嘘をつくのは気が引けるけれど、天音には口裏を合わせてもらえばいいかと気楽に考えていた。
「私、出るよ?っていうか…… どうして私はいつもお休みなの?」
「それが最初の決まりだろ?別にいいんだよ、ホントならじいちゃんと二人でやってくはずだったんだし。とにかく!実際は出て来なくていいから。話だけ合わせてくれ。ほら、店開けなきゃだから急ぐぞ?」
予想もしていなかった問い掛けに慌てて歩みを早める。
それは、俺が原因だから、とは言えない。
あの時はこいつが居たら学校にバレるとばかり思っていたし、まったく役になんて立たないと思っていたし。
じいちゃんもじいちゃんで学業優先の考えだったから押し切る形で長期休みにすら週2日固定に決めたんだった。