冷えた指先

珊瑚礁とはまた違う、でも心地のいい音楽が静かに流れる店の中、テーブルの真ん中に一冊の雑誌を広げ机に突っ伏していた。
カチャリと陶器の合わさる音がし、私の頭がふわりとしたものに包まれる。暖かい、安心出来る大きな掌だ。
その掌の持ち主は黙ったままゆっくりと私の頭を撫で続けていた。

「……気にしなくていい。」
「そうだよ。相手はプロなんだよ?」
「気付かれちゃったらどうしよう…。」
「……構わない。……隠してないから。」
「珪くんの言うとおりだよ?」

さわさわと宥めるように撫で続ける掌を両手で押さえ少しだけ顔を上げると、柔らかく微笑む二人が私を見つめていた。

「私が嫌なの。だから――したくないの。…そう言ってたの。」

目の前の二人と私が繋がっている事を知られて騒がれたくない。歩くだけで好奇の目に晒されるのは今も以前も変わらないと言われればそれまでだけれど、だからと言ってそれに甘えたくはないし、何よりも私が、私のせいで穏やかなはずの日常までも壊したくない。

―――例えそれが親しい友人でも。

「はぁ……。早く来月にならないかな…。」
「……どうして…?」
「だって。来月号は載ってないもん。……この人。」

頭上に上げた手を下ろし、指でそのページのその部分をとんと指すと、さっきよりも強くくしゃくしゃと掌が私の頭を撫でる。

もう一度ちらと視線を上げると、まだ柔らかな笑みを浮かべていた。でもその瞳の奥には私がこうして拗ねているのを楽しんでいるのが見え、少しだけ頬を膨らましながらテーブルにつけた顎の下に腕を差し込み目を閉じ、数時間前の出来事を瞼の裏に映すように思い起こしていた。
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