ハッピーバレンタイン

バレンタインデーって、そんなにすごいイベントだったんだ。

今まで街中がバレンタイン一色になっても気にもとめなかったのは、周りで騒ぐ人が少なかったから、かもしれない。

―――私の近くでバレンタインに関係しているのって、美奈ちゃんくらいだったし。

でも、ここまでは凄くなかった気がする。

日に日に盛り上がっていた雰囲気は、前日である13日の今日となっては異様としか言えないくらいまできている。

多分、その矛先のほとんどが彼に向かっているんだろう。

昼休みの教室、空いた隣の席に目を向ける。
今日もどこかのクラスの女の子達に『順番』と言われて連れられて行った。

明日になったら、きっとびっくりする光景が目の前で繰り広げられる事になるんだろうな。

「天音さん?佐伯くんの事がそんなに気になるの?」

「えっ?」

「ずっと佐伯くんの席を見つめてるわよ?」

目の前の密ちゃんが、うふふっと口元に手を当てる。
両脇に座ったはるひちゃんと竜子さんまでもが、ニヤニヤと笑っていた。

「うん。気になるって言うか、明日はきっと凄いんだろうなって思って。……お誕生日のときみたいに。」

「そうやなぁー。あれは凄かったもんなー?」

「そうねぇ。さすが、プリンスって言われているだけあったわよね?」

「大崎は明日、間近で見る事になるんだろうねぇ。」

「やっぱり、そうなるよね……。」

気の毒にね、と四人で空いている佐伯くんの席を見つめる。

お誕生日の時がそのまま明日に繋がるのなら、またあの人だかりとプレゼントの山になるんだろう。

三人も思い出しているのか、同情とも言える表情。

その中でいち早く密ちゃんが柔らかい微笑みを私に向けた。

「それで?天音さんは、佐伯くんにチョコ渡すの?」

「どうして、佐伯くんに渡さなきゃいけないの?」

「だって、気にしてるんだもの。」

「あの光景見てたら嫌でも気になると思うんだけどなぁ〜」

バレンタインともなれば、当たり前だけどチョコばっかりだろうし。
私があげたところで喜ばないよ。

どっちかと言えば、迷惑って言うか嫌がらせだよね? 
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