冬のある一日

短い休みも終わって新学期が始まった。
夏とは違って休みボケする人もいない。
やはり、受験シーズンというのもあるんだろう。

「天音! なんか急いどんの?」

「うん。今日は用事があって……。って、はるひちゃんもバイトだよね?」

「そうなんさ、途中まで一緒に行かへん?」

「うん、いいよ? 帰ろ!」

教科書を鞄にしまいながら、はるひちゃんと話していると、ガタンと隣の席から慌てて立ち上がる音。

「あ、びっくりさせてごめんね?さよなら、西本さん、大崎さん。」

「あー、また明日なー。」

「バイバイ、佐伯くん。」

本当、ものすごく慌ててる。理由はひとつしかないけど。教室を出る前にも「ごめんね?」をくり返している。

―――本当に大変だ。

そんな事を思いながら席を立つ。

「おまたせ。はるひちゃん」

「ほな行こか? あんたは臨海公園の方に用事あるん?」

「ううん。反対方向。だから本当に途中までなんだけど。」

「ええよ。なら、そこまで一緒に行こな?」

教室より廊下、廊下より外と温度がどんどんと下がる。
空も海もくすんで寂しげ。木々も肌寒そうに見える。

校門の前では、いつもの光景。佐伯くんが、たくさんの女の子達に囲まれて。

「えー? それって昨日も言ってたじゃん」

「そうだよ。たまにはお茶して行こうよ〜」

いつも思うんだけど、断るの大変だろうなって思う。
だって、毎回言い訳考えなきゃならないんだもん。

そんなにないよね? 用事って。

「なんかなー」

「どうしたの? はるひちゃん。」

「なんかな? ハートとか星とか飛んでそうっちやう?」

「どこに?」

「佐伯取り巻いてる女の子の語尾」

星とハート?とよくよく聞くと、なんとなく納得。
伸ばした語尾の最後に付いている感じがする。

「あたしはあんなん気色悪て使えんけどな」

「私は似合わないから使えないかな?」

「なら 天音いっぺんやってみ?」

「はるひちゃんだってやってみたら、案外似合うかもだよ?」

そんな冗談を話しながら、佐伯くん達が居る集団の隣をすり抜ける。
はるひちゃんに用事があるって言ったし、佐伯くんに助け船を出すこともできない。

それに、今日は本当に用事があるし。
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