05 アンビバレント

「それよりさ、あいつ、ホントに凄いよな」
「さすがはるひちゃんだよね」

ここはガラス窓が衝立のようになって隔てられていて、大きな観葉植物があるからか、テイクアウト用のショーケースがある方向は死角になっていた。佐伯くんが普段の佐伯くんになってるけど、はるひちゃんからは見えないんだろう。

「あーあ。おまえが毎回あいつくらいやってくれたら俺が楽なのにな」
「そんなの無理だよー。じゃあ、毎日はるひちゃんに―――いたっ!」

綺麗だから勿体ないとチョコを崩すのをためらっていると、突然の衝撃。反動でフォークがチョコに突き刺さり、花びらがパラパラと割れる。

「あー……崩れちゃった……。佐伯くん酷い……」
「おまえが考えなしに言うからだ。分かってるだろ?」

考えなしだったのは当たってる。でも、今の生活じゃ、佐伯くんはいつでも気を張ってばかりで、どこにも安心する場所がない。
まだまだ短い時間だけれど、私のそばにいてくれる人達は、きっとそのままの佐伯くんを受け入れてくれるんじゃないか……そう思うのだけど。
ただ、それを口にしてはいけない気がして、割れたチョコを口にして一緒に飲み込む。
私だって佐伯くんの内面まで踏み込んでない。きっと、踏み込んではいけない。

「それに、おまえがいるからいいんだよ」
「……私もはるひちゃんみたいな話し方したら出来るかなぁ」
「プッ。なんだよ、それ?」
「だって、佐伯くんが言ったんだよ?はるひちゃんが凄いって。だから、真似したらいいかもーって」

喉元まで出掛かった言葉を全部コーヒーで流し込んでから呟くと、佐伯くんが驚いたように目を見開いてから吹き出した。
分かってるのかと言った時の佐伯くんの強い眼差しが消えて少しホッとする。
たくさんのものを背負ってる佐伯くんの力になりたいと、大切なお友達だから心から思うけど、私の我が儘で佐伯くんが困る事になってしまうのも嫌だから。
きっと、もっと。そういう事が押しつけじゃなくて、自然に出来る、美奈ちゃんみたいなひとになれるまで、このモヤモヤした気持ちも飲み込んでいよう。
声を殺しながら肩を震わせて笑う佐伯くんを見つめながらそう思うのだった。
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