04 アンビバレント

「せっかくの新作ケーキやのに恨めしいわ……。あんたらはゆっくり食べてきや?」
「うん……頑張って、ね?」

はるひちゃんが提案したのは、はるひちゃん自身がアルバイトをしているアナスタシア。
新作ケーキが美味しいと連れてきてもらったんだけど、いざ食べる段階で、今日のバイトさんが来れなくなったからとはるひちゃんに白羽の矢がたったのだった。
うなだれるはるひちゃんがケーキが乗ったお皿を手に店の奥へと消えていくと、正面から大きな溜め息が聞こえた。

「えーっと……。はるひちゃんのオススメ……美味しそうだよね?」
「はぁ。なんでこんな事になったんだろ……」
「私も……まさかこんな事になるとは……あははは」
「あははじゃない。……まぁ、いいけど。これ、ちょっと気になってたし」

じろりと睨む佐伯くんに誤魔化し笑いを浮かべる。
佐伯くんが言うことは至極もっともな事で、反論のしようがない。
これ以上怒らせないよう焦る私からあっさりと視線を外し、お皿に乗った新作のケーキを見つめていた。
佐伯くんは色んなベリーが乗ったタルト、私は円形のショートケーキの上にピンクのチョコでカーネーションを飾ったケーキだ。

「これ、いいな。イチゴが角切りだからベリーの赤みがくどくないし。おまえのも、いかにも女子が好きそうだし。……それ、中はなに?」
「えっと……、イチゴとキウイと……黄色いのはなんだろ?」

お花を避けるようにフォークでカットする。スポンジに挟まれているのは、小さく角切りにされたフルーツ。
はっきりとした色合いが、宝石を挟んだみたいに綺麗。その断面が見えるようにお皿を回すと、佐伯くんのフォークが伸びてケーキを一口さらった。

「マンゴー、だな。フレッシュフルーツだから食感も合わせてあるのか」
「佐伯くん……私まだ食べてないよ……」
「俺をこんなとこに連れ出したからな、罰だ罰」
「ひど……じゃなくて、そうだ、お店!」
「バカッ!声が大きい!」

佐伯くんは時間がある時はお店の手伝いしてるんだし、今日だって本当はそうだったんじゃないかと思い出して慌てて立ち上がる。思ったより大きな声が出て辺りのお客さんの注目を浴び、そっと座り直した。

「ごめん……」
「おまえ声でかすぎ。……今日は手伝う予定なかったからいいんだよ。」

タルトを一口食べては少し目を見開くその表情で、佐伯くんのケーキも美味しいらしいと分かった。
私も自分のケーキを口にする。はるひちゃんのオススメだけあって、本当に美味しい。
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