03 アンビバレント

「あ!佐伯くん!ちょうどよかった!」

偶然を印象付けるように少し高めの声で佐伯くん達の集団の後ろに立つと、少し驚いたように佐伯くんが振り返った。
勿論、女の子達の視線も一緒に。

「……どうかしたの?大崎さん」
「あのね?若王子先生がこれ、返しそびれたって。預かってきたんだけど……」
「あ?あー……、僕のノート。そういえば、先生に預けてた、ね?」

書かれた名前が私のものと分からないように、胸元で裏表紙を佐伯くんに向ける。
一瞬怪訝そうに眉を寄せた佐伯くんが、その裏表紙のノートを見て頷きながら集団の輪の中から抜け出てきた。
私に向かってもっと自然に助けろとか言うくせに、今日の佐伯くんは凄く芝居がかってる。

「若ちゃん、そこでこれ渡してくるんやで?天音も持って帰るしかないしなぁ?」
「そ、そうなんだ。助かったよ、二人とも。」
「そーやろ?あたしらがおってよかったやろー?ほんなら帰ろか?」
「え?あ、ああ、そうだね。本当に助かったよ。じゃあ、みんなまたね?」

私が差し出すノートを受け取る佐伯くんの肩をバシバシ叩くはるひちゃん。
その勢いに負けている佐伯くんが女の子達に別れを告げると、あっけに取られて言葉も出ずに立ち尽くす女の子達から引き離すように背中を押した。
どさくさに紛れるようにそのまま校門を3人で出てしばらく並んで歩く。
無言なのに妙に足早なのは、女の子達が気付いて追いかけて来る前に少しでもここから離れたいという気持ちが同じなのだからだろう。

「天音!あの子ら着いてきとる?」
「大丈夫……みたいだね。追っかけてきてないみたい」

息が上がっているはるひちゃんの問いかけに、そっと顔だけ後ろに向ける。
さっきの女の子達は諦めてくれたらしく、その姿は見えない。
ホッとしながら足を緩めると、同じように歩幅を合わせた佐伯くんがにっこり笑った。

「二人とも助かったよ、本当にありがとう」
「貸しやで!佐伯!」
「えっと……貸し?」
「そう、貸しや!危険を犯してまであんたを助けたったんやでな、高いで?」

仁王立ちしたはるひちゃんがびしっと指を差すとたじろぐ佐伯くん。
遊園地の時も思ったけれど、学校の佐伯くんでははるひちゃんに押されてばかりな気がする。

「それで……僕はなにをしたらいいのかな?」

ああ……。はるひちゃんは気付いてないけど、佐伯くんのこめかみがぴくぴくしてる……。凄く爽やかな笑顔を浮かべてるけど、目が笑ってないし。

「そんなん簡単やで?あたしらにケーキでも奢ってくれたらチャラや。まぁ、今日は用事があるみたいやし?いつでも―――」
「じゃあ、今から行こうか」
「え?」

胸を張るはるひちゃんの上から言葉を被せる佐伯くんに吃驚して思わず顔を見つめた。
はるひちゃんも予想していなかったらしく、言葉を失っている。
そんな私達に向かって、今度は本当に爽やかな笑顔を向けた。

「もちろん。西本さんがオススメのお店に案内してくれるんだよね?」
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