02 指先で約束

そして、そんな光景が再び俺の目前にある。

「なあ。それ、邪魔じゃないか?」

よく考えれば入って早々乗り物も乗らず、そんな身動きするのも大変な物を手に入れて渡す俺ってどうかしてる。と思うんだが、いわゆるよくある女子という生き物特有の「可愛いもの好き」とかいうやつなのか、それとも単純にこいつが子供っぽいのか、上半身程の茶色い物体を大事そうに抱えて頭に顎を乗せながら首を傾ける。
不思議そうに瞬きをする動きに合わせて揺れる睫はやっぱりなんかどきりとする。

「どうして?」
「だってさ、動きにくいだろ、どう考えても。」
「そうかな?きっとさっきみたいに預かってくれるよ?」
「そうだけどさ、あ、いや、そうじゃなくて。」

よくある白いガーデンテーブルを挟んで座っている天音がいうさっきとは、ジェットコースターの事。
預ける荷物なんて今までなかったから俺は使った事なんてなかったけれど、それは天音も同じだったらしく、コースターが動きだして頂上に着くまでその物体の心配をしていた。
その後はそれどころじゃなかったみたいだけれど。

「待たせたなー!オマエらももっかい乗ればよかったんじゃねぇ?」

それじたいが荷物になって邪魔と言い掛けた所で、別行動になっていた針谷達が満足した様子で近付いて来た。
別に待ってなんかないし、むしろこのまま帰って来なくていいし。とは勿論言えない。心の中で思うだけだ。

「いや、僕達にはいい休憩になったよね?大崎さん?」
「そ、そうだよね!叫びすぎて喉乾いちゃってたから、ちょっと生き返ったよ〜。」

突然向けられた俺の表の笑顔に慌てた天音がテーブルの紙コップを針谷に見せる。
ころころと態度を変化させる俺を見るのはさすがに慣れてきているだろうが、学校とは違い長時間になると混乱するのだろう。どこか声が上擦っている。

それじゃバレるだろ。あとでチョップだな。

そんな事が頭をよぎった時、思いもかけない西本の高い声が響いた。

「じゃあ次はあれな!」
「は?」
「は?」
「あれって……メリーゴーランド?」

俺と針谷の声のすっとんきょうな声が同時。そのあとに、天音の緊張感のない声が続いた。

「そうそう!ハリーの好きなん乗ったんやで、今度はあたしや。」
「パス。んなモン、オレ様が乗れっかよ!」
「僕もちょっと…。」

真近くにあるそれから離れてしまえばいいと考えたのか、針谷がそれとは反対の方向に歩きだそうとする。着いていくのは癪だが、アレに乗るよりはと立ち上がった瞬間、思いがけない行動を西本が起こした。

「天音!佐伯を確保やで!」
「は!はい!」

針谷の腕にがっしりと両腕を絡める西本。そして、その声に圧倒されたのか、はじかれるように立ち上がった天音も俺の腕に自分の腕を絡めた。

「あ、あれ?え?え?」

そこでハッと気付いたように俺と自分が絡めた腕を交互に見比べる。

「このまま行くでー!」

はりきる西本に無理矢理引きずられる針谷に重い足取りで着いて行く俺達。
針谷のバカでかい声の抵抗は空しく響いている。
そして、ひきつった笑顔を浮かべる俺の腕に自分の腕を絡ませたままの天音。
このあとどうなるか自分でも分かっているのか、顔は青ざめたままだ。
だんだんと近付いてくる悪魔のような乗り物に乗るのは断じて嫌だ。
でも、ちょっとラッキーかも、なんて、左腕から伝わる熱を感じながら現金な事を考えている俺もまたいるのだった。
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