05 チョップはいつも突然に
八つ当たり気味に銃を台に置いたハリーの居た場所に佐伯くんが立つ。
そうだ、佐伯くんもハリーと同じようになったらもっと悔しがって二人にばれちゃうんじゃ?と、一瞬忘れていた事を思い出したものの、どうする事も出来ずにいた。
伸ばした腕に沿わせるように銃を構えて出来る限りクマに近付ける佐伯くん。パンと乾いた音をさせた後、続けて数発を撃つ。その度にクマが左を向いていき、最後の一発でゆらりと傾いた。
「あ〜!」
「ゲッ!」
「わぁ〜。」
それぞれの声の色は違うけれど、佐伯くん以外の三人が同時に声を上げる。傾いたクマが後ろ側にポトリと落ち、ガランガランガランと福引きが当たった時と同じ鐘の音がけたたましく響いた。
「はい、おめでとうございまーす!」
「ありがとうございます。…ってことで、この勝負、僕の勝ちでいいかな?」
「クッソ〜。佐伯のクセしゃがって。」
「ハリー、ダメダメやったなぁ〜。」
「ウルセぇ!」
落ちたクマと金色の鐘を持った係りの人が裏から出て来て佐伯くんに渡す。ハリーに振り返る佐伯くんのニッコリとした笑顔は爽やかだけれど、かなり得意気だった。
よかった。佐伯くんがばれなくて。
ホッとしながらまた係りの人にお金を渡して銃を構えるハリーと、隣で応援するはるひちゃんを見つめていると、視界全部が茶色になった。
「わっ!」
「なに見てるんだよ。」
「なにって。……これ?」
「……やる。俺が持ってても仕方ないし。」
バフリと顔に押し付けられたそれを思わず受け取り佐伯くんを見上げた。
首の後ろを掻きながら視線を合わせない佐伯くんの言葉に、渡されたクマをじっと見つめる。
思ったよりも毛並みのフワフワなクマはかなり大きく、佐伯くんが持ち歩いたら目立ちそうだ。
似合わない事はないと思うけどな。
クマを抱いた佐伯くんが遊園地の中を歩いている姿を想像してクスリと笑いもう一度見上げた。
「ありがとう。大事にするね。」
佐伯くんがいる事に最初は驚いたけれど、はるひちゃんやハリーと三人でいるよりも、四人でいた方がもっと楽しいんじゃないか。そんな気がしていたのだった。