03 チョップはいつも突然に
ゴンと後頭部に鈍い痛みが走り片手で押さえる。
今のは絶対にいつもよりも力が強かった。
入り口で振り返り手招きするはるひちゃんにいつもの優等生笑顔を向ける佐伯くんにベーっと小さく舌を出すと、その笑顔を私に向ける。
爽やか過ぎるくらいの優等生笑顔。でも、その笑顔とは裏腹に目は笑っていない。
きっとまたはるひちゃん達には見えない角度でチョップをおみまいされてしまう。と確信し、二人に合流しなくてはと慌てて入り口に向かったのだった。
四人で遊園地の門を潜り暫く歩くと少し拓けた広場。前を歩くはるひちゃんが振り返って立ち止まる。
「多数決取るで?最初に乗りたいんは?せーの!メリーゴーランド!」
「ジェットコースターに決まってるだろ。」
「え、えっと。観覧車?」
「僕は別に……。」
この遊園地にどんな名前の遊具があるかなんて知らない。咄嗟に口をついて出たのは、はるひちゃんの背に見える観覧車。みんなはそれぞれ別のものだった。
「なんや、みんなバラバラやな。って言うか、佐伯のは答えに入らへんやん。」
「なら佐伯の答えは男同士おんなじっつーことで、ジェットコースターだな。」
「それ、ハリーがジェットコースターに乗りたいだけやろ?男同士とか関係ないやん。」
ニヤリと笑ったハリーが佐伯くんの肩に腕を回す。はるひちゃんは不服そうだった。もちろん肩に腕を回された佐伯くんも。
絶対気付いていないけれど、かなり嫌そうにハリーを見下ろしている。
「じ、じゃあ。佐伯くんにはもう一回決めてもらえばいいんじゃないかな?佐伯くん、どこに行きたい?」
「そうやん。佐伯の意見で決めればいいんやよな!ハリーも文句なしやで!」
「文句言ってんのはオレじゃなくて西本だっつーの。」
「そ、それで。佐伯くんはどこがいいと思う?」
このままでは、あっという間に佐伯くんの化けの皮が剥がれ―――じゃなくて、優等生の佐伯くんじゃなくなっちゃう。
ちゃんとした答えを聞けば二人とも納得するんじゃないかと顔を覗き込んだ。ハリーを見下ろしていた佐伯くんの顔がゆっくりと私に向けられる。
訝しげに眉を寄せ細められた瞳が、はるひちゃんの声でハッとしたように柔らかい表情になった。
「そう……だね。ジェットコースターも観覧車もいいけど、僕はあそこ、かな?」
少しだけ考え込むような仕草をした佐伯くんが右側にある建物を指差し、三人が同じ方向に顔を向ける。
扉はなく、細い支柱がたくさんある平屋建ての建物。人がいないせいか閑散としたその場所にはるひちゃんが目を丸くした。
「これ、ただのゲームコーナーやん!」
「西本。オマエ、自分で文句ナシとか言ったじゃねぇか。ま、普通に乗り物乗るだけじゃ芸がないかもな?行こうぜー。」
「ちょっ!天音!行くで!」
「う、うんっ!」
悪戯っ子のように笑うハリーが佐伯くんの肩に腕を回したまま建物の方へ歩いて行く。唖然としていたはるひちゃんも後に続き、私も慌てて走り出した。