01 チョップはいつも突然に
「やっぱり……早すぎた、かな…?」
楽しそうに行き交う人達とは違い、私は一人途方に暮れながら佇んでいた。
ここに来てからまだ行った事のない場所だったから、万が一迷っても大丈夫なように早いバスに乗ったんだけれど、正面玄関からほど近い場所にバス乗り場があったなんて。
待ち合わせは10時。時間まで、まだ30分くらいある。
辺りには時間を潰せるような場所もなく、遊園地の入り口へと吸い込まれて行くように歩く楽しそうな人々の邪魔にならない端に退いた。
背中から聞こえてくるのは遊園地独特の軽快な音楽と人のざわめき。それを聞きながら腰程まであるフェンスにもたれ、濃い水色の中にぽっかりと白い雲が浮かぶ空を見上げる。
「別にいいけどよ。オレら三人でか?」
「なんや、両手に花じゃ足りへんって贅沢やわ。」
「そんなんじゃねぇ。っつーか、どっちも花じゃねぇし。」
はるひちゃんに遊園地へと誘われた私は一も二もなく頷いていた。ここに来てから一度も行った事がなかったけれど、ずっと行きたかった場所だし、連休中に遊ぼうと約束していたんだから断る理由もない。
なにか忘れ物でもしたのか、教室に舞い戻ってきたハリーをはるひちゃんが誘うのも笑って聞いていた。
三人で遊ぶのなんて初めてだけれど、今日は楽しい一日になりそう。
「天音?」
この場所では聞くはずがない、でも聞き慣れた声。
驚いて空を見上げていた顔を下ろすと、この声の持ち主である人物が訝しげに立っていた。
「佐伯……くん?―――おはよ。」
「おはよう、じゃないだろ。なんでおまえがここにいるんだよ。」
どうして佐伯くんがここにいるんだろう。そんな疑問よりも先に口から勝手に出てくる言葉に佐伯くんの眉がピクリと動く。
「いたっ!なんでチョップ……。」
「ウルサイ。朝からボケっとしてるからだ。で?なんでここに?」
「なんで、って……はるひちゃんと―――。」
腕が動いたと目で追うよりも早くズキズキと頭が痛む。なんでこんなに素早いのと両手で頭を抱えて見上げると、さっきよりも眉間のシワが深くなった佐伯くんが私を見下ろしていた。またピクリと佐伯くんの肩が動いている。
このままではまたチョップされる―――。
これ以上下がれないけれど、どうにか佐伯くんの魔の手から逃れようとフエンスにもたれたまま背中を反らすと、再び聞き慣れた二つの声が聞こえてきた。
「ハリーのせいやん!」
「なに言ってやがる!完っ壁だろーが!」
「全っ然完璧違うわ!―――あ!天音!佐伯!おはよ〜!」