04 覚えてる

「ええとこにおった!ちょっと頼みがあるんやけど。」

「えっと……。」

「大丈夫大丈夫。手短にするし。」

「なに、かな…?」

真後ろに立つやけに機嫌のいい西本。思わず素のままで見つめてしまい慌てて表情を変える。
こんな所でモタモタしていたら静かな昼休みがなくなる可能性が高い。そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、西本は相変わらずテンション高いまま続けた

「遊園地のチケット貰ったんやけどな?明後日一緒に行かへん?」

「………は?」

受け口の中で掴んだ缶コーヒーが手の中から零れ、ガコンと音をたてて転がる。

なぜ西本にそんな事を言われるのか。第一、学校外で会った事なんかないのに。あるにあるが一度だけで、それは他の連中も一緒だったし、あの時だって今までだってろくに話もした事なんてない。

屈んだままの状態で固まりながら頭の中では色々な事を考えるけれど言葉には出てこない。表情を繕う事も忘れた素の俺に気付いていない西本が少し考え込み続けた。

「待ち合わせは正面入り口でええよな?時間はそうやなぁ……10時な!」

「あ、あの…西本さん?いきなりそんな事言われても……明後日はちょっと用事……。」

「佐伯なら大丈夫そうやけど、遅刻厳禁やで?じゃあ明後日な〜!」

「えっ?ちょっ!にしも……っ!?」

どう考えても人の話を聞いていない強引さに止まったままの思考が動き出し、缶コーヒーをもう一度掴むと取り出しながら立ち上がる。

だが、言いたい事だけを言った西本は俺の返事を聞くよりも早く手をヒラヒラとはためかせて走り去って行き、引き止めようとコーヒーを掴んだ手を伸ばしたままの俺だけが取り残された。

――――人の話を聞け!

これが天音相手なら追いかけて行ってチョップの一つでもおみまいしてやるのに、西本相手にはそうもいかず。しかも、購買にやって来る生徒のざわめきが大きくなり始め、こんな所にじっとしていられないと慌てて西本とは反対方向、中庭のいつもの場所に歩き出した。

運良く誰にも見つからずその場所に辿り着くと、大きな一本の木の前に腰を下ろし溜め息をつく。
どんなに考えても誘われる理由など思いもつかないし、誘いに乗る理由もない。

俺は忙しんだよ。つーか、行くなんて言ってないし。

昨日の睡眠不足が祟ったのか、上手く断る言い訳が出て来ない。
普段言い寄って来る相手なら簡単だけれど、話を聞かない、しかも恐ろしく強引な西本を納得させる言葉が浮かばず、どうしたものかと頭を掻きながら後ろの木に背中を預け、途方に暮れたのだった。
prev 4/5 next

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -