03 覚えてる

「お疲れ様、瑛。明日なんだけどね、本当にお嬢さんと二人で店を開けるつもりなのかい?またおまえが無理を言ってお嬢さんを困らせたんじゃないだろうね。」

「あし……?だ、大丈夫だって。別に無理言ったわけじゃないし、それに、どうせ店を開けるのだって夜だけなんだから。じいちゃんはそんな心配しなくていいから、早く帰りなよ。片付けなら俺がやっとくからさ。」

どうやらじいちゃんは最初の段階で俺に日にちを伝えたつもりでいたらしく、自分がいない店の心配をされたのは店を閉めた後、片付けに入った時だった。
明日だなんて聞いていないなんて言えば店を開けるななんて言われるだろうから、俺はさも当たり前だという顔をして店の後片付けを引き受けた。

そのせいもあっていつもよりも寝不足気味な今日は午前中から欠伸を噛み殺すのが大変だったけれど。

もうすぐ昼休みだし、今日はあの秘密の場所で仮眠でもするかなとぼんやりと考えていた授業中、机の上に小さく折り畳まれた紙切れが転がる。丁寧に畳まれたそれを、音を立てないようにそっと開くと、見慣れた綺麗な文字。

―――眠そうだけれど大丈夫?マスターがいない日、昨日だったの?

前に座っているから俺が欠伸をしているのが分かるのか。それとも、あれから天音には具体的な話をしていなかったから気にかけていたのか。
平常心を装うフリをしていながら俺の返事をまっているのがそわそわした背中で分かり、小さく笑った。

―――平気。じいちゃんがいないの今日だから少し遅くまで準備してただけ。

天音が寄越した紙の空いている部分にそう書くと、天音の背を軽く突く。元のように小さく折り畳んだ紙を後ろ手に伸びた手に掴ませてから教科書を机の中にしまった。

タイミングよく鳴る金の音に合わせて席を立ち上がる。モタモタしていたら誰かに捕まって貴重な昼休みがなくなってしまう。

メモを読んだらしい天音が慌てて振り返った事には気付いたが、返事を期待して書いたわけではなかったから気づかないふりをして教室を出た。

―――コーヒーでも買ってくか。

昼寝にあてるなら購買でパンを買う数分の時間も惜しい。
階段を降り、購買の隣にある自販機で缶コーヒーを買い受け口から取り出していると背中をポンと叩かれ、屈んだまま顔だけを向けた。
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