冷えた指先

「どうした?佐伯。オマエでもそういうのに興味あんの?」
「いや…そうじゃないけど。この人…見た事ある。」
「マジ?どこでだ?」
「ショッピングモールで去年の秋頃…かな?遠目だったし、かなり雰囲気が違うけど…たぶん。」

お昼ご飯を食べた後も、なぜかそれまで一言も話さなかった佐伯くんが、引き寄せた雑誌を覗き込み納得するように頷く。

―――いったい何の事を――?

一瞬で真っ白になった頭、急激に冷える指先を隠すようにぎゅっと握り締めた。そんな私の動揺に気付く事のないハリーが前のめりになって雑誌に覆い被さる。

「佐伯のタイプはこういうのか。いっつもオンナなんかに興味ねぇってすましてんのに…へぇ、年上好みっつーやつ?」
「……なんか色々勘違いしてるみたいだけど。人だかりが出来ててこの二人がいただけ。」
「相変わらずつまんねぇヤツだな。ま、いいけど。っつーか、残念だったな、天音。コイツら付き合ってるんだとよ?」
「えっ?…佐伯くん…見たの…?」
「オイオイ…マジかよ。オマエ、そんなにこんなヤツがいいのかよ…。」

絶句した私に向かい呆れ返るハリー。私しか分からない、真実など知る事のないハリーには、熱狂的なファンが事実を知ってショックを受けているように見えるのだろう。
誤解をさせている事は分かっているけれど、平然とした顔をする事が出来なかった。

―――佐伯くんがいた――?

雑誌よりも驚く事態に目を見開きながら佐伯くんを見つめる。
不思議そうに少しだけ頭を傾けると小さく頷いた。

「うーん。ちょっと自信はないんだ。本当に遠目でしか見掛けてないから。もしかしたら別人かもしれない。」
「今、見たって言ったじゃねぇか。どっちなんだよ。」
「見たって言っても一瞬だったし自信は持てないよ。だから大崎さんは心配しなくて大丈夫だと思うよ?」
「なにが大丈夫なんだよ。」
「だから、僕の勘違い、だって。」

押し問答を続ける二人になんて言葉をかけていいのか分からず黙り込む。佐伯くんも勘違いをしているのか、学校専用の優等生スマイルを私に向けていた。

二人が考えている事は思い違いだと否定する事も出来ず、立て続けに起こる思わぬ事態に対応出来ないまま、冷えた指先を暖める為に手を合わせて握り締めたのだった。
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