冷えた指先

椅子を足場にする代わりに教室のものより少し長い、音楽室の机に腰掛けたハリーの左側。ぽつんと忘れられた雑誌。
普段は意識的に手にしないものだけれど、ずっと変わらないデザインだから例えそれが雑誌の裏側だったとしても見間違うはずなんてない。
ギターを支える足を組み替えたハリーがその雑誌の方に身体を傾けるのを見て思わず息を呑む。そして、身体を支えた左手が触れた瞬間、飲み込んだままの息を吐き出す事さえ忘れてしまっていた。

「―――あ?ここは遊び場じゃないっつーの。誰だよ、こんなモン持って来るヤツ。」

『なんや落ちたものでも食べたんちがう?おかしいで?ハリー!』ここにはるひちゃんが居たのならそう笑いだしただろう。普段のハリーでは到底似合わない言葉を紡ぎながら、その言葉同様にさも興味がないとばかりに無造作に引き寄せると雑誌の端を摘みパラパラと捲り始める。その手がふと止まり、真ん中を掴んで持ち上げた。

「オマエ、コイツのファンだっけ?こーんな鼻の下伸ばしたヤサオトコがいいって趣味悪ィんじゃねぇの?」
「フ…ファンって言ったのは、はるひちゃんでしょ?私は一言も言ってないよ。」
「なーに焦ってんだ?は、はーん?さては図星っつーことか。」
「だから、そういうのじゃないの。……ねぇ。これ、誰のかな?きっと探してるよね?」
「あー?思い出したら取りに来るんじゃねぇの?っつーより、オマエマジ焦りすぎだろ。こんな奴のどこが……。」

私に向けられた雑誌に手を伸ばし奪い取ろうとすると、意地悪く笑うハリーがそれをくるりと回し言葉を途切れさせる。少しの沈黙の後、再び私の方にページを向けられた。目の前に男女のモデルが写ったページが揺れ、思わず釘付けになる。

「このさ。オンナの方、チラっとオマエに似てね?」
「……え…っ……?そんなこ―――。」
「なーんつってな!」
「ハリ……?」
「似てるわけねぇよなぁ?オマエこんなにクールっぽくねぇし。どっちかっつーとぽやんキャラだもんなー!」
「なっ…。」

大笑いしながら雑誌を無造作に投げるハリーにどう返していいか分からず口をパクパクとさせていると、すいと腕が伸びてきて雑誌が引っ張られていった。
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