霞みの空

天音は安堵の、針谷は呆れた顔と声で。

「じゃ、佐伯、音楽室行くぞ?ここよりは落ち着くだろ。あ、天音も来るだろ?」
「え?私もいいの?」
「当然。ほら、行くぞー?」

『どうして?』違う意味の疑問を浮かべ天音と顔を見合わせるも、さっさと教室を出る針谷の後を慌てて追いかける。
機嫌よく歩く針谷は、後ろから着いていく俺達を少しも気にする様子もない。

こいつは俺の事気付いているんだろうか。今までそんな素振りは見せた事ないのにどうして急に……。
それに……俺が天音だけを特別視している事も。
小ぶりの弁当袋を抱えて歩く天音を、ちらりと盗み見する。

「ホラ、何そんなトコで突っ立ってんだ?さっさと入って来い、んで閉めろ。」
「あ、あぁ。」

音楽室の入り口、扉の前に立ったままの俺に針谷が適当な席に着きながら顎で指図する。
断る理由も見つからず、針谷の意図も気になる俺は言われるがまま一歩を踏み出す。
そんな俺の躊躇いに気付いているような天音の表情を感じながら、針谷の傍に近づくと適当な席に腰を下ろした。

「へぇ、佐伯も弁当派?」
「いや、今日はたまたま。」
「ふーん、オレさ今日は持ってねぇんだよ。悪ィな、二人とも。」
「ちょっ、ハリーそれは食べ過ぎ〜!」

にやりと笑う針谷が俺と天音の弁当を遠慮なくつつくのを、どう接していいか分からず黙って見守る。

今こうしている針谷は、今までと特別変わったところはない。
俺が学校でだけこんな態度をするのも、天音にだけ他の女子とは違う思いを抱いている事も気づいてる感じは……。

「オマエさ、イヤならイヤって言えばいいじゃん?そんなにムリする事なんてねぇと思うけど?」

味なんて分からない昼食の後、満足げな針谷が奏でるギターの音色を聞きながらぼんやりとする俺に話しかける。

何を言い出すんだと針谷を見つめる俺の視線に、気付かないのか気付いていてあえて気にしていないのか、手元を見つめたまま、まるで独り言のように。

「器用っぽいけど、どう見ても不器用みたいだからなオマエ。適当にあしらえないんだろうけど?まぁ、それが悪いとは思わねぇけどな。面倒になったらここに来たらいいんじゃねぇの?」
「それって……。」
「あ?別に深いイミなんてねぇよ。面白そうだし、オマエ。」

深い意味がなければそんな事言わないだろ、と言い出そうとした俺の言葉の前に『なんだコレ?』と針谷が脇にあるものに触れる。
何気なくパラパラとめくり始めるその雑誌に、それまで黙って聞いていた天音の表情がふと変わった。

それは今まで針谷ばかりを気にしていた事を忘れてしまうくらいに目に焼きついて。

天音のほんの僅かな表情の違いに、気付いてしまうくらいになっていた俺がそこにいたのだった。
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