霞みの空

誰か一人くらいは同じクラスになるかもとは思っていたけれど、天音が同じクラスだって安心したら他の奴の事なんてすっかり忘れていた。

―――それがまさか針谷だったなんて。

「オーッス!お、天音も佐伯も同じクラスか?」

タイミングよくというか悪くと言うか。
相変わらずバカみたいにでかい声で、教室の後ろの扉から入ってくる針谷。
当たり前のように天音の隣の席を陣取る。

「おはよ、ハリー。今年一年よろしくね?」
「おう、まかせとけ!佐伯、仕方ねぇからお前も仲間に入れてやるよ!」
「……何の仲間かよく分からないし、僕は一言も入れてくれなんて言ってないけど?」
「なんだ?天音、朝からご機嫌ナナメか、なんかあったのか?」

斜めな元凶はお前だ針谷!とも言えず、天音に身体ごと近づいた針谷の邪魔なくらい尖った髪を全部寝かせてやりたいのをぐっと我慢しながら突如沸いた女子達に顔を向ける。

去年も聞いたような、一緒のクラスがなんとかかんとかと言うのを上の空で聞きながら、針谷に笑いかける天音の横顔を見つめる。

―――あの時の天音の驚いた顔。いったい何だったんだろう?

あれはホワイトデーの終わった次の日曜日。
森林公園は快晴で、ぽかぽかとした陽射しの中のんびりとくつろぐ場所は桜並木からは少し離れた芝生が広がる広場。

「ちょっと早すぎたか……。」

見上げる桜はまだ三分咲きといったところ。
それも無理はない。
まだ開花の声を聞いてから何日もたっていないんだから。

「そうだね、でも膨らんだ蕾っていいと思わない?」

『春を感じるよね』と言いながら、手が届きそうな程近くにある枝に近づいて見上げる。

「お前ってさ、ポジティブだよな。」
「そうかな?」
「あぁ、なんか悩みなさそう。」
「ひどっ、これでもそれなりにあるんだけどな。」

2人で笑いながらくるりと並木道を回り屋台で適当なものを買い込むと、まだ若く青い匂いがする芝生に座り込んだ。
俺達と同じように気の早い花見客と、茶色にしか見えない桜を見ながらごろりと横になる。
バタバタと慌しいテスト前からの日々も過ぎ、ここから新学期までは少しは穏やかだろう。

すぐに春休みもやってくる。

そして短い休みが過ぎれば、二度目に出会った本当の春が来る。
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