策略のマグカップ

最後に見たのは放課後。校門を出たら天音に話しかけようと、手ぶらになった玄関先でのんびりと靴を履き替えていた。

門の前には志波がいて、まるで誰かを待ってるような雰囲気。珍しい事もあるんだな。
あんなに人を寄せ付けないくせに。なんて思っていたら天音の傍に自然に近づいて、まるで当たり前のように並んで歩き始めて。

適当な距離を保った俺に、二人の会話なんて聞こえないけど前を歩く他の生徒の隙間から、志波が何かを渡しているのが見えて。
志波は身長があるから、その表情がよく見える。
普段は聞いてるのか聞いてないんだかどうにも見えない顔してるくせに、天音に向かってよく話しかけていて。

天音も天音で、驚いたり笑ったり表情豊かで楽しそうで……。

最近、特にこの三日間は俺に向かって笑う天音を見てない。
そんな事を志波が優しく笑いながら天音の頭に手をやるのを見ながら思う。

他の生徒も居なくなって、いつでも話しかけられるのに少し躊躇している。
さっきまであんなに楽しそうだった天音が俺を見てどう変えるんだろうか。なんて思ってしまったから。
そう思っても、どっちみち帰る方向は同じ。

「なにニヤニヤしてんだ?」

少し空けていた距離をそっと縮めて、背中に話しかける。
紙袋を覗きこんで歩いていた天音の背中が跳ね上がる。
振り返った天音は目を丸くしていて、本当に気付かれていなかったようだ。
もっと遅くなるとか思っていたんだろうか。

「どうしたんだ?」
「う、ううん。なんでもない。それより、身軽になってるね!?」

微妙にしどろもどろな天音が、すっかり身軽になった俺に苦笑いをする。

やっぱりいつもと違う。だが、理由が分からない。
なにが、どこがいつもと違うんだろう。
歩き始めた俺に合わせて歩く天音の紙袋に探りを入れながら思う。

「みんないい人だよね?プレゼントしたわけじゃなかったのに、わざわざお返しまで用意してくれるんだもん。」

相手の好意を真っ直ぐに受け止めた天音が笑う。

……そうじゃないかもしれないだろ? 

もしかしたら特別な思いが芽生え始めているかもしれないじゃないか。 ・・・・・・俺みたいに。

すぐ傍まで近づいた店を見ながら溜め息をつく。

今日一日も、これから先やきもきするであろう日々も……。

なんだか長そうだ。
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