策略のマグカップ

それからろくに話す事も出来ないまま週のど真ん中。そして群がる女子共のど真ん中に俺はいる。
通学路の途中から増え続けた女子は、学校に入るとさらに増えて。

とっとと始めて早く終わらせないと……。
この顔は……、こんな名前だったか。

先月の記憶を頼りに紙袋からブツを取り出し、笑顔と共に相手に渡す。

「これ、たいした物じゃないんだけど。本当にありがとう。」
「わぁ〜 佐伯くん覚えていてくれたんだ!嬉しい〜!」

『感激だよ〜!』と見上げる相手に、『そんなの当たり前だよ。』と笑ってから顔と名前を記憶から消去。

よし、ひとつ仕事が終わった。

教室に入るまでにどんどん消化されていく紙袋の中身。
普段なら纏わりつかれるのが本当に嫌だが、今日ばかりは相手から来てくれないだろうかと思う。

自分から探しに行かなきゃならないのは、かなり面倒だ。

朝から顔を合わせた天音は相変わらず驚いてはいたけれど、さすがに学習しているのかすぐににこやかに挨拶をする。

この間言い損なった事を話したいのはやまやまだが、今日ばかりはこっちが優先。
でないと、時間ばかり掛かって店の時間に間に合わない。

休み時間も相手を探すため、紙袋を引っさげてわざと目立つように廊下を歩く。
案の定わらわらと出てくる女子に心の中では溜め息をつきながら、次から次へとお返しを事務的なありったけの笑顔と共に渡す。

昼休みには天音が違うクラスで昼飯を食ってる姿を横目で見ながら、次はどの辺りを歩けば相手が出てくるだろうか?なんて考えていた。

その後、少し考えれば想像できることが天音の身に起こるなんて気付かずに……。

最初に見たのは、昼休みが終わる数分前。
氷上が慌てたように呼び止めて、なにやら身振り手振りに話してるのを天音が楽しそうに聞いていて。

この間も思ったけれど、その氷上はいつも見せる神経質そうな奴じゃなく穏やかそうな、それでいて優しそうな。

それを見た瞬間、そうか今日はこういう日なんだって。
またどこかで、この光景を見て胸がチクリとするんだって思った。

天音の気持ちじゃなく、他の奴の気持ちが気になる日なんだって。

次に見たのはHRの前。西本が針谷を廊下でからかっていて。
今日のために用意した訳じゃないようだったけど、天音との距離が近くなってるのが分かる。

俺が知らない間に、確実に。
prev 2/6 next

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -